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第十四話 酒が呼ぶは凪か嵐か その一

前話までのあらすじ。

竜の娘の想いに応えるべく、自分にとって最も難儀な選択をした小心者の騎士ディアン。その想いを受けて自分自身の意志で力になる事を約束する竜の娘。劇ならこれで幕を下ろすところだが、劇ではない彼らの旅はまだ続く。小心騎士に安息は訪れるのだろうか。


それでは第十四話「酒が呼ぶは凪か嵐か」お楽しみください。

 野次馬の歓声と拍手から逃れるように城壁を降りると、足早へ宿へと戻る。

 宿では女将が私達を見るなり駆け寄ってきた。


「騎士様! 騎士団長の件、大丈夫だったかい?」

「あぁ、何とか穏便に事は運んだ」

「そりゃ良かった! じゃあ今夜はお祝いだね!」

「いや、祝う程の事はない」


 私の言葉に女将が目を丸くする。


「騎士様ってもしかして凄い大物だったりするのかい?」


 あ、そうか。ルビナが皇女と知ったり、明日竜皇国に行く事が決まったりして、団長の件は私の中で小さくなっていたけど、この街の人にとっては絶対的な権力者に刃向かって無事なんだから、そりゃ驚くか。


「もしかして騎士団の不正と腐敗を正す、国王陛下直属の密偵だったり?」

「いや、そんな大層なものではない。しがない一騎士だ」


 演劇の見過ぎではないだろうか。

 たとえ私がそうだったとしても、荒事におたおたしている内にルビナが解決するような話、客が呼べるとは思えない。


「まぁ何にしても良かったですね! 今晩のお食事もうちでよろしいですか?」

「あぁ、頼む」

「お酒もたっぷりありますからね」

「あ、いや、旅の予定が変わってな。明日には発つ事になったので、酒は程々で頼む」

「えっ、そうなんですか……」


 明らかに女将の声色が下がる。

 客の早発ちなど珍しくもないだろうに、何かあるのだろうか。


「ルビナちゃん、だったわね」

「はい」

「今夜はうんとご馳走するから、いっぱい食べて飲んでいってね」

「あ、ありがとうございます」


 ルビナの手を握り、力強く言う女将。

 ほんの二日三日の縁なのに、ここまでしてくれるのは何故だろうか。

 生き別れた娘に瓜二つとか、夭逝ようせいした親友の生き写しとか、何か思い入れがあるのか?


「ルビナちゃんがいると、お酒の売り上げが一桁違うもんだから、おばちゃん樽で仕入れちゃったのよー。沢山飲んでくれたら助かるわー」

「は、はい」


 あぁ、そういう事……。

 私の思考の方がよっぽど演劇寄りだ。


「じゃあなるべく早く食堂に来てくださいね。うちの常連さん、早い時間から来る人多いから、その分売り上げが立つんですよ」


 ここまではっきり言われると逆に清々しい。

 隠し事や嘘がないと言うのは、それだけで強いものだと改めて思う。


「ディアン様、女将さんはああ仰っていましたが、頂いても良いのでしょうか?」

「まぁこの街での夕食も最後だ。有り難く頂くと良い」

「分かりました! ありがとうございます!」


 正直明日大仕事が待っているのを考えると、今晩は早めに切り上げて寝たかったのだが、ルビナも嬉しそうだし仕方がない。


「ひとまず汗を流しに行こう」

「分かりました」


 着替えを取りに部屋へと上がりながら、ルビナに虚像ばかりを見せてその場を取り繕っている自分を振り返る。

 最後の最後まで私はこの嘘を貫けるだろうか。

反語的表現に見えて仕方がない。


読了ありがとうございます。

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