第十三話 決意照らす夕陽は紅く その六
「最後じゃない」
「え?」
私の言葉に、ルビナが表情を変える。
「私が竜皇国への大使を願い出れば、王国の代表として両国を行き来する事になる。そうすればルビナが竜皇国に帰った後にも会える機会はある。これが最後の別れではない」
「……ディアン様が、大使に……?」
「竜言語が使える人間は王国内では希少だ。更に私には竜皇に直接面会したという実績がある。私が志願すれば任じられる可能性は極めて高いと言える」
「……そんな、事が……」
「ここであの劇の真似事などする必要はない。ここで終わりではなく、まだこれからも続きがあるのだから」
「……!」
あぁこれで後戻りは出来ない。
大使に志願すればなれるのは事実。
国王陛下や貴族達は諸手を挙げて賛成するだろう。
……問題はルビナを送り帰したら、竜皇国と交渉する材料が何一つ無いと言う事。
国からの成果の催促と、竜族の門前払いとの板挟みで今以上の心労が重なる事は想像に難くない。
「……ディアン、様……」
「何だルビナ」
あれ? ルビナの表情が硬い。
てっきり、ディアン様にこれからも会えるのですね!って喜んで抱き付かれる期待、いや覚悟を決めていたんだけど、思った程私との別れに思い入れは無かったのか?
そうならば大使の件撤回したいんだけど。
「私に出来る事がありましたら何でも言ってください。ディアン様のお仕事に皇女と言う立場は、きっとお役に立てると思います」
急にどうしたんだ?
確かに私が大使になった時に皇女であるルビナの協力が有効なのは間違いない。
だが純粋なルビナを政治的な権謀術策に利用すると言うのは気が進まない。
「うむ、しかし皇女が理由もなく人間に肩入れすると言うのは……」
「私、ディアン様のお力になりたいのです。これまで沢山のものをディアン様から頂いているだけでした。少しでも私の出来る事でお返ししたいのです」
私の反応を見て、必死さを増すルビナの訴え。
貰うだけではなく返したいと言う気持ちが芽生えてるのは良い傾向だと思うが、ここまで必死になる程の理由とは思えない。
「ご迷惑にはなりません! 以前教えていただいた通り、自分の力がどのような影響を及ぼすかを常に考え、必ずディアン様のご指示を仰ぎます! ですから、どうか……!」
「落ち着けルビナ」
「だって、だって……」
ルビナの目には再び涙が一杯に溜まっているが、今度は零すまいと力を込めているのが分かる。
「……ディアン様は、竜を恐れていらっしゃいます、よね……?」
うっ、確かにそうだし、以前ルビナに話したけど、何故今それを……?
覚悟が覚悟を呼んで次回に続く。
読了ありがとうございます。