第十三話 決意照らす夕陽は紅く その四
ルビナの今の好きは愛の告白じゃ無い。
あくまで側にいる者への好意に過ぎない。そう思おうとするけど、心臓はやかましいままだ。
「てっきり厚切り肉や金色の菓子かと思ったのだがな」
咄嗟に軽口が出たのは日頃の行いの賜物か何かだろう。
このまま話の先を逸らせば、
「勿論好きですが、それはディアン様と一緒に食べられたからです。かつて国で食べたお肉もお菓子も、ディアン様と食べた物には到底及びませんでしたから」
逸れないし、それ無い!
竜皇国の時の思い出を話せるのは以前から比べると良い傾向だけど、私が一緒なら皇族の料理よりも美味しいってそんな訳ない!
「まぁ、あんなに女性の方から積極的に……」
「ここまで言われて何もしないんじゃ男じゃないぞー!」
「女の人、頑張って!」
「男冥利だねぇ」
「口づけだ! 口づけ!」
「口づけ……」
無責任な周囲の声に、ルビナが反応する。
くそ、恨むぞ、菓子屋の店主とそこの若い男!
「……ディアン様、口づけとは先程の劇の最後に二人がしていた事、ですよね」
口づけと言う行為そのものを誤魔化す手も潰えた!
何とかしなくては!
こんな男所帯の飲み会の様な勢いで、人生を棒に振る訳にはいかない!
「まぁそうだが、あれは劇だからであって、普段は人前でする事ではないな」
「そうですよね。お菓子屋の方も二人きりになってからせがむように、と言っていましたし」
菓子屋の店主は許そう!
夜に問題を先送りにしただけのような気もするが、宿の部屋で二人きりなら何とか誤魔化せる、はずだ!
……何かそっちの方が危ない気もするけど。
「ねぇ、そろそろ下に降りない?」「そうだな」
「そろそろ帰ろうね」「うん、お母さん、今日はお肉が食べたい」
え、あれ? ちょっと? 皆さん?
「もうこんな時間か」「もう行かないと晩御飯遅くなっちゃうね」
「え、もう降りるの? もうちょっと」「馬鹿! だからあんたは駄目なのよ!」
途端に移動を始める周囲の人達。
何だその気遣い! やめて!
もっと別の事に使えば世界は今より平和になるだろうに!
「あ、ディアン様。陽が落ちてきました」
気が付けば太陽が赤い光を帯びながら山間へと近づいてきている。
世界の全てが橙色に染まり、様々な境界が曖昧になっていく。
夕陽を見つめるルビナの瞳は、その紅さの中でも紅玉の輝きを失わない。
「今日が、終わるのですね……」
そう呟いて私に向いたルビナの美しい瞳には、悲しみと、寂しさと、そして覚悟の様な色が浮かんでいた。
若干一名空気読めないのがいましたが無事回収。
読了ありがとうございます。