第十三話 決意照らす夕陽は紅く その三
城壁の上に吹く風は、眼前の森の香りを爽やかに運ぶ。
「風が気持ち良いですね」
「そうだな。ルビナ、こっちも見てみると良い」
「わぁ、街が全部見渡せますね。あ、噴水」
城壁の上は、身分証と金で誰でも登る事が出来る。
観光資源と維持費を確保する中々の策だ。
なので周りには親子連れや恋人などがそこここにいる。
とりあえず二人きりになる事はない。良し。
「ディアン様、あそこ、氷菓子のお店です」
え、どこ? あ、あれか! よく見つけたな。
「今日も随分と人が並んでいるな」
「美味しいですものね」
「そうだな」
ルビナは街の外よりも中の方が好みの様だ。
嬉しそうにあちこちを眺めている。
「あ、あれ、昨日のお昼を食べたお店ですね」
「金色の菓子が随分と気に入っていたな」
「本当に美味しかったです。あ、あそこでしたよね。この首飾りを買って頂いたのは」
「……どこだ。見えないぞ」
「あの青い屋根と、赤茶色の屋根の間です」
え、建物そのものだけでなくその周囲まで憶えているの!?
「憶えているのか。凄いな」
「えへへ、一度見ると憶えてしまうんです……」
あれこれ言いながら、城壁の上を歩いていく。
良かった。随分と元気になった様だ。
これなら竜皇国に帰しても、竜族から酷い扱いを疑われる事も無いだろう。
「ディアン様、宿が見えました!」
「おぉ、良く見つけたな」
「挽肉焼き、美味しかったですね。お酒と一緒に食べるとまた蕩ける様な幸せで……」
ルビナはその後も次々と立ち寄った店や場所を見つけては、私に教えてくれる。
期せずしてこの街でのルビナとの思い出を辿る形になっている。
たった三日だが思ったより色々と回れているなぁ。
「この街では楽しい事ばかりでした」
「何よりだ」
「ディアン様のお陰です! 好きな物も沢山増えました」
「それは良かった」
ルビナの好きな物、か。
肉、菓子、酒、ルビナは大抵のものは喜んでいるが、今日は最後の日だ。一番喜ぶ物を何か用意してやりたい。
「ちなみに一番は何だ」
「一番好きな物、ですか?」
「あぁ。食べ物に限らず、何でも良いぞ」
この後の参考にさせてもらおう。
……宝石と言われると困るが。
「ディアン様です」
は?
「私が一番好きなのは、ディアン様です」
私いいいぃぃぃ!? 肉も菓子も酒も宝石も差し置いて私いいいぃぃぃ!?
だがにっこり微笑むルビナの顔からは、お世辞の空気は微塵も感じられない……。
本気、なのか? いや、好きにも色々あるし!
こう、家族愛的な何かかも知れないし!
食べ物に限っておけばこんな事には……。
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