第十三話 決意照らす夕陽は紅く そのニ
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
「ルビナ、次は甘い物でも食べるか」
「はい!」
香りを辿ると、目当ての店はすぐ見つかった。
「ディアン様、これは?」
「薄く焼いた生地に果物を挟み、蜜をかけて食べる菓子だ。中に入れる果物は好きな物を選べる」
「美味しそうですね」
「ルビナ、どの果物が良い」
「えっと……、昨日の朝、女将さんが出してくれた赤い果物はありますか?」
「……あるな。あれが気に入ったのか」
「はい。甘くて酸っぱくて、とても美味しかったです」
「分かった」
一つ注文して、出来立てを渡す。
「あの、ディアン様の分は?」
「あぁ、私は結構満腹なのでな」
「そうですか。では先に一口だけ召し上がってください」
ずいっと突き出すルビナ。
え、ちょっとこの体勢は、その、よろしくないぞ。
「気にしなくて良いぞ。ルビナが食べればそれで良い」
「……でも、ディアン様と一緒に美味しさを味わいたいのです」
あぁ、そう言えばそういう約束だった。
今更新たに買うのもおかしいし、かといって前の菓子のように突き匙がある訳でもない。
うむむ、仕方がない。
「では一口もらうとしよう」
「はい、どうぞ」
差し出された菓子を、周りの視線を気にしつつ一口齧る。
……うむ、生地に甘味をあまり付けない事で、果物の酸味と蜜の甘味がしっかりと味わえるように工夫してある。
この手の手軽に食べられる菓子を売る店は多々あるが、ここはその中でもかなり格上だ。
「うむ、美味い。ルビナも食べると良い」
「はい、いただきます。……美味しいですね!」
ルビナは嬉しそうに菓子を平らげた。
「いやぁ恋人ってのは良いねぇ」
菓子屋の店主がにやにやしながらこっちを見ている。
うぐ、やはり傍目にはそう見えるよなぁ。
「恋人、に見えますか……?」
「えぇ? 違うのかい? 一つの菓子を二人で分けて仲良く食べるもんだから、てっきりそうだと思ったんだが」
「そう、ですか……」
「恋人になるのはこれからって事かな? いやぁ初々しくていいねぇ!」
やめてお願い煽らないで!
ただでさえルビナの中で恋人と言うものが、良く分からないけど今より深い関係性、って認識になってるんだから!
「あの、他に恋人がする事って何がありますか?」
ほら乗ってきた! 真面目な顔で何訊いてるのルビナ!
「そうだなぁ。一緒に歩いて、手をつないだり、腕を組んだり、健全なのだとそんなとこじゃないかねぇ」
店主も真面目に答えないでくれ!
健全なところまでで止めてくれたのは本当に有り難いけど!
「ルビナ。そろそろ行こう」
「え、あ、でも」
まだ何か聞きたそうな様子のルビナ。
余計な事を言われないうちにここを離れないと!
「あぁそれとお嬢ちゃん、二人きりになったら口づけをせがむと良いぜ」
「口づけ、ですか」
遅きに失したあああぁぁぁ! 良い仕事しただろ?って顔でこっちに片目をつぶるなあああぁぁぁ! 感謝を返せえええぇぇぇ!
「ディアン様、口づけとはど」
「さぁルビナ、少し腹ごなしに歩こう。そうだ、城壁の上に登ってみるのも良いな」
「あ、はい」
これ以上ルビナとの関係をややこしくしない方が良い。明日には別れる身なのだから。
それに皇女と口づけを交わしたなんて竜皇国に知れたら、五体満足じゃいられない!
人前であーんをやったら、そりゃあ、ねぇ?
読了ありがとうございます。