第十三話 決意照らす夕陽は紅く その一
前話までのあらすじ。
竜の娘が皇女である事が明かされ、動転する小心者の騎士ディアン。その上明日には竜皇国に帰る事になり、別れに落ち込む竜の娘を立ち直らせようと腐心する。何とか気持ちを上向きにする事は出来たものの、残りわずかな時間をどう過ごすのか。そして小心騎士は無事に別れへと繋げる事は出来るのか。
それでは第十三話「決意照らす夕陽は紅く」お楽しみください。
市場に着く頃には、丁度昼時になっていた。
残された時間はさほど無い。
別れを決めた以上、ルビナが少しでも良い思い出を作れるよう、全力を尽くさねば。
「ルビナ、昼食はこれまでに食べた物と、まだ食べた事の無い物、どちらが良いか」
「えっと、まだ食べた事の無い物がいいです」
「分かった」
と頷いて気付いた。
今朝食べた物があまりにも高級すぎて、市場の物なんか何食べても美味しくないんじゃないだろうか!
まずい! 何か方法を考えなければ!
「あ、ディアン様。あれは何ですか?」
「あぁ、あれは挽肉を混ぜた崩し芋に、砕いた麦餅の粉を付けて揚げた物だな。食べてみるか」
「はい!」
ルビナから言い出した物だから、多少口に合わなくても文句は出ないだろう。
それに庶民料理ながら揚げ立てなら高級料理とも良い勝負が出来る、はず。とりあえず助かった。
油紙に包まれた揚げたてを二つ買って、一つをルビナに手渡す。
「とても熱いから火傷に気を付けてな。ではいただきます」
「分かりました。いただきます」
歯を立てるとざくりと小気味よい音。
中から湯気を立てて姿を見せる崩し芋。
火傷をしないよう注意しながら噛むと、熱さと旨味が広がる。
「どうだ」
「はふっ、ほれ、ほいひいれす!」
「それは良かった」
味わうのもそこそこに、食べながらあちこち見まわす。
次、次は何がいい。あ! あれはどうだろう。
「美味しかったです! ごちそうさまでした!」
「ごちそうさま。次はあれを食べてみよう」
「何ですか? 棒みたいな食べ物ですね」
「腸詰だ。細かく挽いた肉を腸に詰めて燻製にしたものだ」
「細かく挽いた肉、ということは、昨日の夕食の挽肉焼きの様な……?」
「そうだな。だが包んでいる腸の皮が旨味を閉じ込め、また独特の歯ごたえを生む」
「食べてみたいです!」
「よし」
これも焼き立てならそうそう引けを取らないだろう。
代金を支払い、串に刺して炙った腸詰を手渡す。
「熱い肉汁が皮の中に閉じ込められている。だから」
「火傷に気を付けて、ですね」
「あぁ。ではいただきます」
「いただきます」
皮を噛み千切るとぱきっという音と共に肉汁が湧き出す。美味い。
他の肉料理ではどうしても零れてしまう肉汁が、食べる瞬間まで肉に閉じ込められているのが、この料理の最大の利点だ。
「ディアン様、これも美味しいですね!」
「うむ、そうだな」
よし、これも当たった! 次は何が良い!?
揚げ物、肉と来たから、次は……、ん、この甘い香り……。
唐突に始まる食べ歩き番組。
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