第十二話 幸せは短過ぎて その七
ルビナが知った私とはどんなものだろうか。興味がある。
「ほう、例えばどんな事だ」
「ディアン様はいつも私の事を考えてくださっていますね」
うーん。確かにルビナを気にかけてはいるが、それは自分を守る為という方が大きい。
ルビナは嘘がなく裏表もないから読みやすいが、私の様な臆病が故に虚勢を張っている人間をルビナが理解するのは難しいだろうな。
「それに豊富な知識をお持ちで、人を助ける為に惜しみなく使われます」
豊富な知識で人助け? 前の町での芋餅の事か?
あれは人助けというよりはその場を逃れる為の苦し紛れと言うか何と言うか。
「また自分を害する人さえ許す広い心で、多くの人を救われました。それにどんな状況でも動揺する事なく常に堂々とされていて、お傍にいると安心できます」
誰そいつ!?
農家の若者の件はほぼほぼ打算だし、騎士団長の件は結局師匠が解決したようなものだ。
動揺していない様に見えるのは商人上がりの騎士と侮られない為の演技だし、実際は動揺しまくってるし、まぁ演技が上手くいっているのは良いんだけど、ルビナに私はどう見えてるの!?
「とても勇敢で、恐怖に打ち勝つ心の強さがおありです。それだけでなくディアン様に触れていると、心の奥が温かくなって安らかな気持ちになります」
待て待て待て!
確かにルビナに抱いていた恐怖は今は無いけど、それは打ち勝ったと言うより流されたと言う方が正しいし、触れているだけで心を安らかにする能力なんてものがあるなら、騎士なんて辞めてそっちで食っていけるぞ!?
「食堂であの団長に声をかけられた時に颯爽と助けてくださった姿、格好良かったです。あ、いつも格好良いのですけどあの時は特にそう感じました。あとお食事を召し上がっている時の表情もとても凛々しくて、眠っておられる時のあどけないお顔もまた素敵で……」
どんどん饒舌になるルビナが止まらない!
本気の目だ!
本気で私が言葉通りに見えてるんだ!
「あとこの首飾りが似合っていると仰ってくださった時の声がとても涼やかで、あの言葉で首飾りの輝きがより増したのではないかと思える位でした。それに」
「ありがとう。ルビナも私の事を知ってくれている事を嬉しく思う。さ、ひとまず昼食を食べに行こう」
「……? はい、分かりました」
無理矢理話を打ち切る。
遠慮なく褒められる恥ずかしさよりも、ルビナの中の自分の虚像が大きくなり過ぎている恐怖が凄い。
信用や信頼を突き抜けて信仰と呼んだ方が相応しく思える。
騎士としてルビナを安心させる為の振る舞いを意識してはいるが、ルビナは純粋なのだろう。
その装いを丸ごと信じてしまっている。
劇の主人公がそのまま居ると勘違いする子どもの様だ。
……私が小心で卑小な人間であると知った時、どんな目で見られるのか……。
「市場で良いか。色々な物が選べる」
「はい、お任せします」
虚像が剥がれる前に、やはり明日別れておくのがお互いの為だ。
奥の手は永遠に封印しておこう。
ルビナの前を進みながら改めて決意した。
自己評価は良くも悪くも世間と乖離する。
第十二話終了となります。
読了ありがとうございます。
次話から第十三話「決意照らす夕陽は紅く」になります。
今後ともよろしくお願いいたします。