第一話 小心騎士と竜の出会い その七
竜を包む光が、収まっていく。あれ? 何か小さくなった?
『どこまでもお供致します』
人間になったあああぁぁぁ!?
赤い目位しか竜の特徴がない。肌も白いしどっからどう見ても妙齢の美女にしか、っていかん! 裸だ! いや仮の姿だろうけど、女性の裸をさらしておく訳には、外套でとりあえず!
『これをまとってください』
『はい』
外套をまとってようやく直視できるようになった。とは言えまともな恰好とは言い難い。どこかで服を調達しないと。
『なぜ人間の姿になったのですか』
『何故か魔力が少し戻ったようなので、身体変化の魔法を使いました。騎士様のお傍にお仕えするならこの姿がよいかと思い、村で男性から好まれていた女性の姿を模しました。お気に召さないのでしたら戻します』
『その姿で構いません』
『承りました』
びっくりしたけど、正直町に入るならこの姿の方が有り難い。あと傍にいるなら仮の姿であろうと美人に越したことはない。これは真理だ。
『人間の言語は行使できますか?』
町に入る事を考えると言葉も使えると有り難い、と思って訊くと、竜は俯きながら口を開いた。
「……はい、人間の村に三年おったんで……。これで、伝わるだべか……?」
伝わる伝わる! 言葉も内容の重さも! 田舎口調でなかったら申し訳なさで押し潰される位に!
だがここで態度を崩す訳にはいかない。旅の供である私が取り乱したり、頼りない態度を取っては、不安が募って誇りを取り戻すどころじゃなくなる。
騎士としての毅然とした言葉遣いを思い出して、深呼吸。
「少し訛りがあるな。一般的なものに訂正していこう」
「分かっただ」
「その場合は分かりました、だ」
「分かりました」
田舎言葉は町や都市では露骨に馬鹿にされるから、手間だが修正していこう。だがその手間を差し引いても竜言語で話さないで良いのは助かる。難しいんだよ竜言語。
「竜の君、名前は」
「騎士様、おらにはもう名乗る名もごぜぇません。どうかお好きなようにお呼びくだせぇ」
あーうん、確かにこの状況で竜としての名前は呼ばれたくないよな。
「……ではルビナでどうかな」
瞳の色から連想した名前だが、口にすると、うん、いい響きだ。
「……え……。名を、貰えるんでごぜぇますか……?」
「あぁ。気に入らなければ別の物を考えるが」
「とんでもねぇこってす。ありがとうごぜぇます。おらの名はルビナですだ」
うーん、こんな美人が農家のおじさん口調で話す姿は、違和感が凄いな。
「……自分を呼ぶ時には、おらではなく私の方がいいな。それとありがとうごぜぇます、はありがとうございますと言った方がいい」
「はい。ありがとうございます。私の名はルビナですだ」
「語尾に、だ、は付けない方がいい」
「分かりました」
思ったより面倒くさいかもしれない、これ。
始めた以上は形になるまでやるけど。
「私はディアン・オブシ。ディアンと呼んでくれ」
「分かりました。ディアン様」
馬を失って、竜と二人連れの王都までの旅、これから私はどうなっていくのだろうか……。
おめでとう! りゅうは にんげんのむすめに へんかした!
第一話終了となります。
読了ありがとうございます。
次話から第二話「言葉とご飯と水浴びと」になります。
今後ともよろしくお願いいたします。