第十二話 幸せは短過ぎて その六
「さて、次はどこに行こうか。少し早いが昼食にしても良いな」
「……ディアン様」
「何だルビナ」
劇場から出て当たり障りのない話題を振る私の手を、ルビナが握った。
思い詰めた顔。あの劇からルビナは何を受け取ったんだろう。怖い。
「……種族の違いとは、共に生きる事が許されない程に大きいものなのでしょうか……。私は、ディアン様と明日別れたなら、もうお会いする事は出来ないのでしょうか……」
うぐ、そう来たか。
まぁ口づけについて聞かれなかったのは良かったけど、どう答えよう。
ルビナの望む答えに繋がる手段はあるにはある。
だがそれは可能な限り避けたい。ひとまず最初の問いだけに答えるとする。
「そうだな。寿命も価値観も違う種族が、全く同じ生き方をする事は不可能だろう」
「……はい」
予想通り陰が濃くなるルビナ。
救いの一手を晒したくなる気持ちをぐっと抑える。
理解が早く、そして諦めも早いルビナの事だ。
このまま納得は出来なくても竜皇国に帰る事を受け入れるだろう。
「だが、全く同じ生き方、というものに拘らなければ可能だ。私とルビナのように」
「え……」
だがせめて何かの気休めでも与えたいと思うのは、自己満足か優しさか。
「人間である私と竜であるルビナは、多少の齟齬はあったにせよ共に旅ができた。短い時間で竜への印象も変わった。ルビナも出会った時よりも明るくなった。人間への考え方も変わっただろう。それは同じ時間を共有できたからだ」
「本当、ですか……?」
縋るような目に、出来るだけ優しく微笑む。
「私が信じられないか」
「いえ、その……」
あ、まずい。泣きそう。
思っていた以上に不安が大きかった様だ。
私への信頼感との板挟みにしてしまった。
強制的に思考を変えさせなければ。
「ならばこれまでの時間が有用であったという証拠を提示しよう」
「え……?」
「ルビナは食べる事が大好きだ。実に美味しそうに食べる。食べ物への感謝も忘れない」
「ぅ」
目を見開き固まるルビナ。
「身を飾る物にはあまり興味はないが、持ち物に愛着を示し大事に扱う。それゆえに自分の大事なものに害意を示す者に怒り、守るために戦う事ができる」
「ぴゃっ」
聞いた事の無い奇声を発するルビナ。
「性格は素直で、教えられた事をきちんと守り、そのためになら自分の怒りを抑えられる力強い理性を持っている」
「あぅぅ……」
私の手をぎゅうっと握り俯くルビナ。
「困っている者のために、自分の希望を犠牲にしてでも手を差し伸べる優しさがある。それと子どもに好かれるな。まだまだあるが、これだけの事を私は知る事ができた。これまでの時間の意義は疑うべくもないだろう」
「……は、はい、でも、その、何だか、凄く嬉しいのですが、身体の芯が、むずむずします……」
耳まで真っ赤にしてしまったルビナ。褒め殺し大成功。
思考を乱すのに羞恥は特に有効だ。
「私が理解しているルビナがいる。私がまだ知らないルビナがいる。同じようにルビナが理解している私と、まだ知らない私がいる。お互いの理解は完全ではないが、同じものを観て、同じものを食べ、同じ時間を過ごす事は出来る」
「はい……」
まだ赤いままだが、顔を上げたルビナは私の目をしっかりと見つめていた。
「完全な理解にこだわる必要はない。出来ると思う方が傲慢だ。だが出来ないと諦めるのも愚かだ。だから知る事、伝える事の努力を続ける。それは私の中では人間同士の事だけだと思っていたが、ルビナのお陰で竜と人ともいずれ分かり合えると思えるようになった」
「はい……」
目に力が戻っている。よし、元気が出たようだ。二つ目の問いに意識が戻る前に何か別の話題を……。
「私もディアン様の事、沢山知る事が出来たように思います」
お、ルビナから話題を振ってくれた。有り難い。乗っておこう。
本人達は真剣なんだけど、傍目にはどう見ても惚気。
読了ありがとうございます。




