第十二話 幸せは短過ぎて その五
劇場の中はそこそこ人が入っていた。二人並んで座れる席を見つけて腰を下ろす。
「……あの、ディアン様。この演劇と言うのはどういうものなのですか……?」
お、ルビナから質問して来た。演劇に多少なりとも興味が湧いて来ている様だ。良い傾向だ。
「昔起きた、または起きたとされる出来事を、人が衣装をまとって再現するもの、と言ったところか」
「そうなのですね」
「戦いの場面などもあるが、本当に人が死ぬ訳でもない。作り物と思って気軽に観ると良い」
「分かりました」
うわ、隣の席の観劇通と思われる人から凄い睨まれている。悪いとは思うけど、初めて見るルビナが劇に入り込み過ぎて乱入でもしたら、と思うとこれ位の予防策は必要なんだよう。
「それと面白かった、素晴らしかったと思ったら手を叩いて気持ちを伝えると言う拍手と言う習慣もある。大体は劇が終わったところで行う事が多いから、周りを見てすると良い」
「分かりました」
隣の人の視線が弱まった。拍手も知らない子に教えるなら仕方がないと思ってもらえたのだろうか。あぁ恐かった。
「お、始まるようだ」
幕が上がり、役者が演技を始める。
話としては単純だ。とある国の美しい姫が魔物にさらわれ、それを騎士が助けに行くという、ありきたりの冒険譚だ。
とは言え演技や戦いの立ち回りにはなかなか気合が入っていて、話の流れは分かっていると思いながらも引き込まれてしまう。
「……っ」
横目で見ると、ルビナも身を乗り出すように舞台に見入っている。良かった、大分気持ちが切り替わったようだ。
「姫! ご無事でしたか!」
「ありがとう騎士よ! きっと助けに来てくれると信じていました!」
騎士が魔物を退治して姫を助け出した。いよいよ最後の場面だ。この話の流れなら結末は、二人が結ばれるか騎士が国に出て別れるかのどちらかだろう。
「どうかいつまでも妾の傍に……!」
「……お気持ちは嬉しく思います。しかし私はここに留まる事の許されぬ身……」
お、別れる結末か。
「実は、私は人に変化した竜なのです!」
えええぇぇぇ!?
「姫を助けた力も私が竜であればこそ。しかし私が姫と結ばれれば、国は大きく乱れましょう」
「……どうしても、行ってしまうのですか……」
「お許しを……」
「ではせめて最後に、永遠の思い出を……」
「はい、この先姫と離れようとも、この瞬間だけは永遠なのです……」
二人は口づけを交わし、幕が下りた。沸き起こる拍手。手を叩かないとまた隣の人に睨まれそうだから叩いてはおく。
が。
何だこの展開いいいぃぃぃ! 何でそこで竜の話を入れる必要があったんだよおおおぉぉぉ! 要らないだろ神のご加護とかで良かっただろう!?
「……」
拍手の中ぼうっと幕の下りた舞台を見つめているルビナ。竜と人であるが故の別れという内容を、ルビナがどう思ったのか、恐くて感想が聞けなかった。
まさかの展開。
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