第十二話 幸せは短過ぎて その一
前話までのあらすじ。
誇りを失ったせいで、自分に依存しつつある竜の娘を守った結果、貴族にして騎士団長を務める男に恥をかかせてしまった小心者の騎士ディアン。それ自体は師匠の縁で事なきを得たが、その師匠の口から竜の娘が皇女である事が告げられる。実は師匠が竜皇の弟であったと言う事実も霞むこの事態、焦る小心騎士はどう立ち回るのか?
それでは第十二話「幸せは短過ぎて」お楽しみください。
師匠の衝撃の発言を受けて、場を沈黙が支配する。物凄く話しにくいけど、訊かなければならない事が沢山ある。水を飲み干し、勇気を振り絞る。
「ルビナ、いや、えっと、ガネット、様?」
私の言葉にガネット様の表情が悲しそうに歪む。
「……ディアン様、あの、どうか今まで通り、ルビナと、お呼びください……」
「いや、しかし……」
そういう訳にもいかないでしょ! 高位竜族なんじゃないかとは思っていたけど、もし本当に皇女だったとしたら、勝手に名前を付けて敬称もないとか許される訳がない!
「ディアン。皇女たる我が姪たってのお願いだよ。今まで通りに接して差し上げると良いのでは?」
師匠がっちり退路を断たないで! ……うぅ、仕方ない。呼び捨てで呼んでも要望を断っても失礼なら、せめて希望される方にしよう。今まで通り、今まで通り……!
「……分かりました。で、ではルビナ、……竜皇国の皇女というのは本当なのか」
「……。はい……」
いやあああぁぁぁ! 夢であってくれえええぇぇぇ! これまでの私の対応何かの罪に問われるんじゃないの!?
「親書を見るに、兄上は随分と貴女を心配していた様子だったよ。あの兄上が人間の力を借りるなんて、まだ当分先だと思っていたのだけどね」
「……そう、ですか……」
俯くルビナは、恐怖のような安堵のような、何とも言えない表情を浮かべている。まぁ竜の誇りを失い国に帰れないと言ってはいても、実の親が心配してくれていると聞けばそうなるか。
「師匠が皇族と言うのも本当なのですね……。今まで何で隠していたのですか」
「隠していた訳では無いよ。私は竜族の他種族に対する差別意識に嫌気がさして国を出ているから、今更皇族を名乗る気は無かったまで。今は普通の竜として扱ってもらえればそれで結構」
普通の竜の扱いって何ですか。どこに行けばそれ教えて貰えるんですか。
「それにしても兄上は、普段は厳格にして理知的な名君だったが、娘の事となるといささか冷静さを失うきらいがあるね。行方不明になった娘のために人間に協力を頼むという、竜皇国始まって以来の異例の行動に出る位だから」
え、その娘への愛情、私にどう働きますか? 娘を保護してくれて感謝に堪えないなのか、娘と同衾など八つ裂きでも生温いなのか、それによって今後の対応が変わってくるんですけど。
「いやはや、今日ほど君を弟子にして良かったと思った日はないよ」
「あ、ありがとうございます」
師匠にここまで手放しで褒められるのは嬉しいけど、情報が多すぎてもう何が何やら。
「ここまでの流れの中で、竜は人間の力を見直さざるを得なくなった。またこの件で王国は竜皇国に貸しを作れ、国家間の力関係も変化する事だろうね。私の望む、竜と人とが対等になる世界にまた一歩進んだ訳だ」
その理念は人間である私からすれば、有り難いし素晴らしい。だがどうしても一つ確認したい事がある。
「師匠、あの村の仕掛けはそういう事だったんですか……?」
あの村って何のこっちゃと思った方は、第一話をご覧ください。
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