第一話 小心騎士と竜の出会い その六
『あの、これは……』
『ここは私に任せてください。良いですね』
『はい……』
竜に小声で耳打ちすると、カルサさんへと向き直る。
「ではこの大蜥蜴はもらっていくぞ」
「しっかし本当に良かっただか? あんなえぇ馬と交換してもらって」
「泊めてもらった礼もあるからな。気にしないでくれ」
全然良くないよ! 苦肉の策だよ!
くぅ、これで王都に帰るまで徒歩か……。
あと王都に帰ったら支給品を紛失した旨の始末書書かないとな……。
あぁ、査定に響く……。
「しっかしこんなもんが王都では見世物になるだかね」
「あぁ、国王陛下にお見せしたら、きっとお喜びになる」
喜ぶどころか顔真っ青だよ!
その場で私の首が物理的に飛ぶよ!
「では騎士様、お元気で」
「ありがとう。世話になった」
『では竜の君、私に続いてください』
『は、はい……』
とまどいつつも私に続く竜。できるだけ手綱を引かないように気を付けて歩く。
村を出てしばらく進み、カルサさんの視界から外れたところで森へ入る。少し行くと木立の切れ間があった。周囲に人の気配もない。よし。
『竜の君よ。貴方はあの村から解き放たれました』
『は、はい?』
手綱を外しながら伝える。竜は戸惑っている様子だ。
『貴方の身柄はあの村人から馬と交換で私が譲り受けました』
『そういう、事でしたか……』
『屈辱や怒りは私に免じて忘れて頂きたい』
『……』
恐い恐い恐い恐い! 村から離れた以上、竜の力も戻り始めてるはず! ここで怒りに任せて攻撃されたら、戦うどころか逃げる事さえ出来るかどうか分からない! どうか穏便に国に帰って!
『分かり、ました……』
やった! 通じた! これで竜皇国に帰ってくれれば、万事解決だ! まさか人間に捕まっていたなどと自分の不名誉は言いふらすまい。あの村の脅威だけ伝えて、お互い遠巻きに生活すれば……。
『私は騎士様の所有となりました』
これで竜と人との接点も、ってあれ?
『どうぞ馬としてご存分にお使いください』
あっれえええぇぇぇ!? 馬と交換って言ったからそういう解釈になっちゃった!?
『竜の君、私は貴方に乗騎する気はありません』
『……馬としての価値すらないと……。ではなぜ私を馬と交換してまで手に入れたのですか……?』
逆方向の解釈をする竜の目に怯えの色が広がる。
『た、食べるのですか……』
何でそうなる! あ! 尻尾切って食べるとか村で聞いてるんだった!
『いえ、貴方の窮状に心痛めただけの事。どうかお気になさらずに竜皇国にお帰りください』
『お心遣い感謝いたします。しかし私ごとき者に帰る場所などございません。騎士様の失った馬の代わりにお使いください。馬として使えないのであれば、食べ物の調達でも水汲みでも出来ることは何でもさせて頂きます』
駄目だこの竜! 心が完全に折れてる! 自分の価値を馬か、下手したら奴隷かとまで思っちゃってる!
こんなのこのまま国に帰したら、たとえこの竜が事情を説明しなかったとしても、竜族は人間に言葉に出来ない何かをされたとしか思わないじゃん!
『竜の君、私は貴方を馬や奴隷にする気はありません。しかし今旅の供が必要だと感じています。私の旅に同行することを希望します』
『そういう事で御座いましたか。承りました』
良し。良しじゃないけど良し。とりあえず王都まで一緒に行って、その間に少しでも自信とか誇りとかを取り戻させて、駄目だったら師匠に何とか責任を取らせて、ってあれ? 何? 竜が光に包まれて……?
おや? りゅうのようすが……?
読了ありがとうございます。