第九話 心、うつろい その七
「これは、氷菓子、ですか……?」
「お二人が迷子の案内に行ったことを、店長に言っておいたんです。そしたら迷子を助けに行った人にうちの氷菓子を食べさせない訳にはいかないって、二人分取っておいたんですよ」
有り難い。しかし……、これは大きくないか?
「当店特製! 氷菓子大盛に、追加料金で付ける果物や菓子を全部乗っけた贅沢盛り! どうぞ召し上がれ!」
「よ、よろしいのですか?」
これは店の厚意か?
いや、流石にこれは無料という訳にはいかないだろう。
しかし普通のにしてくれ、とか私の分は結構、とか言えないルビナの勢い。もう匙を持ってるし。
「溶けちゃいますから早くどうぞ!」
「い、いただきます!」
ルビナが匙で氷菓子をすくって口に運んだ。
「美味しい……!」
涙ぐむルビナ。
嬉しさも美味しさもひとしおだろう。
「お兄さんもどうぞ!」
「あぁ、いただこう」
覚悟を決めて口に含む。
うん、美味い。確かに宣伝通り氷菓子なのに柔らかい。
甘さがしっかりしている分ややしつこさもあるが、付け合わせの果物や菓子が味替えになって、この量でも問題なく食べられる。
ルビナも私もあっという間に平らげてしまった。
「美味しかったです! ありがとうございます!」
「わざわざ取っておいてくれて感謝する。美味しかった」
「ありがとうございます! ではこちらを!」
返した器と引き換えに手渡される請求書。
ですよね。商売ですもんね。
「ちょっとおまけしときましたから!」
「……ありがとう」
……これって値段的にあまり頼まれない追加の果物や菓子の在庫処分だったのでは?
いや、厚意だ。そう信じよう。
菓子にしては結構いい値段の支払いをしながら、そんなことを思ったりした。
「さて、そろそろ宿に戻るぞ」
「はい!」
もはや何のためらいもなく私の手を握るルビナ。
「今日の晩御飯は何でしょうね?」
「楽しみだな」
そんなことを言いながら、私は一日付きまとっていた違和感の正体にようやく気が付いた。
恐くないのだ、ルビナが。
手を握られても握り潰される恐怖がない。
ルビナを傍に置いておく事を無理だと否定しなかった。
怒りを覚えたルビナを怖いとは思わず、落ち着いてたしなめられた。
食べ物の事でからかった。
どれも竜としてルビナを恐れていた時には考えられなかった事だ。
「明日もお天気だと良いですね」
「そうだな」
今夜は酒を飲もう。ルビナが隣で寝ている事を忘れていられる位に酔わなければなるまい。
今夜こそお楽しみですね。
第九話終了となります。
読了ありがとうございます。
次話から第十話「月に叢雲、酒に陰」になります。
今後ともよろしくお願いいたします。




