第一話 小心騎士と竜の出会い その五
爽やかな朝だ。外は良い天気のようだ。
……私の心の悩みの雲が、あんな感じに晴れたらいいのに。
「おはようごぜぇますだ、騎士様」
「あぁ、おはよう」
欝々とした気持ちを振り払うために身体を動かそうと部屋を出ると、さすがは農家。既にカルサさんも目を覚ましていた。
「騎士様、起きるの早ぇだな」
「毎朝訓練をしているのでな。自然と目が覚めるのだ」
「そうだか。そったらおら達と一緒に体操するだか?」
「体操?」
「昔旅の人から教わった健康体操だ。毎朝これやると健康になるだよ」
「ほう、それは興味深い。ご一緒しても良いかな」
「どうぞどうぞ。みんな広場でやってますんで」
私は日ごろの鍛錬の準備運動にでもと、軽い気持ちでカルサさんの後に続いた。
「おいっちにー、さんしー、ごーろく、しっぱち」
「にーにっ、 さんしー、ごーろく、しっぱち」
うんうんなるほどなるほど。これが健康体操か。
違あああうううぅぅぅ! これ竜殺しの儀式だあああぁぁぁ! 竜から魔力を奪い、自分の力にする儀式舞踊じゃないか!
「騎士様もやるだか? 一から教えるだよ?」
「いや、いい。見ているだけで結構だ」
何で平気なの!?
これ一度師匠にやらされたけど、身体に周囲の魔力を取り込むために体力を極限まで絞り出さないといけないから、外部から力の補給が無ければしばらく立てなくなるまで疲弊するのに!
「おいっちにー、さんしー、ごーろく、しっぱち」
「にーにっ、 さんしー、ごーろく、しっぱち」
これで分かった! 竜が簡単に捕まったり尻尾切られたりした理由が!
竜の強さの源である魔力を吸い取って力を増すんだから、竜は魔法どころか身体能力そのものが弱体化して、逆に村人は竜の巨体を引き摺って来るぐらい訳ない力を得られる!
「よーし! 今日の体操終わりだべ!」
「さ、仕事にかかるべ!」
疲弊してない! 完成してる! 完全に周りから魔力を集める体質になってる!
村人全員がこれなら、竜は村に近づいただけで力の行使がままならなくなって、触れられただけで無力化される!
「この体操というのは、いつからやっているのだね」
「あぁ、十年くれぇ前にこの村に寄った、外国から来たっちゅー旅の人に教わっただ」
外国の旅人……? あ、何だかすっごい嫌な予感。
「ほう、どんな旅人なのだ」
「綺麗な銀色の髪で、背ぇが高くって、女みてぇな男の人で、あぁそれと珍しい緑の目さしてただなぁ」
やっぱりか師匠おおおぉぉぉ! 何考えて村丸ごと竜殺しの結界にしたんだあああぁぁぁ!
「おら達は野良仕事さ行くだで、騎士様はのんびりしててくだせぇ」
「あぁ、ありがとう」
しかし逆に考えれば、あの竜がこの村から離れさえすれば力を取り戻せる事を知れたのは収穫だ。
さてそのためには……。
原因は健康体操だった模様。
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