第九話 心、うつろい その五
「あの、ディアン様、あれ……」
「……子どもだな」
ルビナが示した先には、泣きながら歩いている子どもの姿があった。
「どうしたんでしょう」
「親とはぐれたようだな」
「あの、助けてあげられないでしょうか?」
おや、ルビナから意外な提案。
「あの子どもの親を探してやると言う事か」
「はい」
「出来なくはないが、この列から離れる事になる。氷菓子、楽しみにしてるのではないのか」
「……構いません」
楽しみにしていた氷菓子と、見ず知らずの子ども。
何故天秤にかけて子どもを取れるのだろう。
「森の中でディアン様がいなくなったと思った自分を思い出してしまって……」
「そうか。分かった」
列を離れ、泣いている子どもの元へ向かう。
「……申し訳ありません。ここまで一緒に並んで頂いたのに……」
「構わない。今日はルビナの行きたい所に行く約束だ」
ルビナが望むならもう一度並び直しても良い。
その時には先に値段を聞こう。
「おい、大丈夫か」
「うぇ、ひっく、お、おがあぢゃん……。うえええぇぇぇ!」
私が声をかけると、子どもは堰を切ったように泣き出した。
「安心しなさい。私達は君が母親と会えるように助けに来た」
「うえええぇぇぇん!」
「大丈夫、きっとお母さんに会わせてあげるから」
「えうぅ、ひっぐ、ほ、ほんと……?」
ルビナが声をかけた途端泣き止む子ども。
……何だろうこの差。
「君、名前は?」
「……タルク」
「タルクね。分かった」
子どもの頭を撫でたルビナが私に向き直る。
「ディアン様。魔力を行使する許可を頂けますか?」
「何をするつもりだ」
「周辺の風の振動を拾い集めて、この子の名を呼ぶ声を探します」
風の魔法はそんな事も出来るのか。
あてもなく探すよりは確かに良いけど、目立つのは困る。
「それは周りの目につく魔法か」
「いえ、僅かな風を集めるだけですので、周りの方に気づかれる事はないと思います」
「分かった。許可する」
「ありがとうございます! では……、『風よ、彼の者を呼ぶ声を我が元に』」
ルビナが目を閉じる。はた目には何もしていないように見えるが、
「……いました!」
早い。魔法は本当に便利だ。
「どっちだ」
「あちらの角を左に曲がって進んだところにある十字路の真ん中です!」
「よし、行くぞ」
タルクに手を伸ばすが、
「……や!」
拒否された。
うーん、それなら母親の方をここに連れてきた方が良いのか?
「ね、一緒にお母さんのところに行こう?」
「……うん!」
ルビナの手をためらいなく握るタルク。
私は氷菓子の列に並んでいた方が良かったんじゃないか、そんな切ない気持ちを抑えつつ、ルビナが指定した場所へと向かった。
綺麗なお姉さんに敵うもの無し。
読了ありがとうございます。