第九話 心、うつろい その四
「ディアン様は美味しい物の事にお詳しいですね」
「そうかな」
「そうですよ。先程のお店での金色のお菓子も、この氷菓子も、何故そんなにお詳しいのですか?」
そう言えば私の話はルビナにした事が無かったな。
待ち時間を潰すには丁度良いかも知れない。
「以前に言ったかも知れないが、私は騎士になる前は商人だった」
「昨日道で会った方々に話していましたね」
「その時に各地を回り、客が喜ぶ物を探し、調べ、仕入れていたのでな。その間に色々と知ったのだ」
当時は嫌々だった商人生活も何かと役に立つものだ。
「そうだったんですね」
「一人で旅をしていた時には活用の機会も少なかったが、ルビナの役には立っているようで何よりだ」
からかう様に言うと、ルビナが慌て出す。
「わ、私、そんな食べ物の事ばかり考えていると思われているのですか……? やだ、どうしよう……」
「ははは。喜んで食べるから紹介のし甲斐があるという事だ」
まただ、この違和感。今までと明らかに何かが違う。だが不快な感じはしない……?
「そうだ、ルビナが今まで食べた物の中で一番口に合ったのは何だ」
「そうですね……」
思い付きで振った話題だったが、ルビナは思いの外真剣に悩んでいる。
まぁ長い待ち時間の暇つぶしだ。考える時間は十分にある。
「……決められません」
「ほう、そうか」
これまでの反応からして、牛の厚切り肉か、先程の金色の菓子だと思っていたけど違うのか?
「最初に頂いた肉と野菜を挟んだ麦餅は久しぶりの草以外の食べ物で感激しましたし、牛の厚切り肉の美味しさは涙が出る程でした。ディアン様と一緒に作った芋餅は少し硬いですけど食べごたえがありましたし、串焼き肉はそのままでも麦餅に挟んでも美味しかったです。魚料理も調理の仕方であれほど変化があるとは思いませんでした。先程食べた金色のお菓子も忘れられそうにありません」
おぉ、思った以上に味わってくれているんだな。
「ディアン様と食べた食事はどれも特別で、一つ一つの記憶が輝いているようです」
「そうか」
いやルビナ、私と食べたからと言うより、草だけが食事だった生活からの変化が大きかっただけだと思うぞ。多分。
「これから食べる氷菓子も楽しみです!」
「そうだな」
大分列も進んだ。間もなく購入出来るだろう。
……値段どこかに書いてないかな。
胃袋の完全掌握を確認!
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