第九話 心、うつろい その三
「先程のお菓子は美味しかったですね、ディアン様」
「そうだな」
これで四回目の感想。
余程あの菓子が気に入ったと見える。
行商人の事などすっかり忘れたようで何よりだ。
「ディアン様、あの行列は何でしょう?」
「行ってみよう」
行列の最後尾で案内をしている女性に声をかけた。
「済まない。これは何の行列だ」
「いらっしゃいませ! 新作の氷菓子の販売です!」
「氷菓子か」
「ディアン様、氷菓子とは何ですか?」
「氷菓子と言うのは、果実の汁や乳を甘く味付けして冷やし、凍らせたものだ」
「なかなかお詳しい! でもそれだけじゃありませんよ!」
女性が勢い込んで割って入って来た。
町の服屋の女主人といい、水鳥亭の女将といい、女の商売人に押しが強いのが多いのは何故なんだ?
「今行列になっているのは新製品です! 凍らせる際に丁寧にかき混ぜる事で、氷菓子は硬いという固定観念を打破し、柔らかくて滑らかでとろける甘さ!」
「……わぁ……」
食べたいか、と聞くのも野暮なこの反応。
……かなり待つようだが仕方がない。
「では並ばせてもらおう」
「よろしいのですかディアン様? 先程も頂いたばかりですのに……」
「今日はルビナの希望に沿う約束だ」
「ありがとうございます!」
と並びながら値段を聞き忘れたことを早速後悔する。
新製品となると値段が読めない。
聞く限り大分手間暇をかけているようだし、高くないと良いんだけど。
「わぁ、私達の後ろにもどんどん並んでいきますね」
「氷菓子の新製品ともなれば、物珍しさもあるのだろうが、この店の元々の人気があってのことだろう」
これだけ人が並ぶなら、さほどとんでもない値段でもないのだろう。そうであってくれ。
氷菓子自体は紀元前からあったそうなので、大丈夫。
読了ありがとうございます。