第九話 心、うつろい その二
舌打ちが聞こえた方を肩越しに見ると、赤ら顔の男が二人、昼から酒を飲んでいた。
「まったく、儲けそこなったぜ!」
「しかたねぇぜ。お前が欲をかきすぎたんだよ」
「うるせぇ!」
良かった私には関係の無い話か。
「あの町に芋餅の作り方を教えに来た奴がいたなんて計算外だったぜ!」
「麦の値を釣り上げたお前さんは、信用だけ失って大損だな。かっかっか」
「うるせぇってんだよ!」
関係ある話だった。
「ディアン様、あの方々はもしかして……」
「あぁ、あの町で麦の売り惜しみをしていた行商人のようだな」
世間は狭いものだ。気付かれると厄介だな。ここは静かにやり過ごして……。
「ったく余計なことした出しゃばり野郎をぶん殴ってやりたいぜ!」
「!」
ルビナの顔から笑顔が消えた! 先日の惨劇が頭をよぎる!
「ルビナ」
「大丈夫です。ディアン様が町の方のためにされた事を馬鹿にしたり、ディアン様を害するような言葉に怒りはありますが、私の力は怒りに任せて無闇に振るうものでは無い、と教えて頂きましたから」
「そうか。良く覚えていてくれたな」
「えへへ……」
まただ。何だこの感覚の微妙なずれは。
「折角の菓子だ。周りなど気にせずゆっくり食べると良い」
「はい!」
笑顔に戻り、菓子を頬張るルビナ。私はそれを眺めながら、万が一ルビナが行商人に怒った際に頼む追加の菓子を何にしようか考えていた。
世間は狭い。
読了ありがとうございます。