第九話 心、うつろい その一
前話までのあらすじ。
誇りを失った事から依存に近い感情を抱く竜の娘に、自分の意思を取り戻させようと街を巡る小心者の騎士ディアン。手を握られたり、噴水を見て回ったり、首飾りを買ったりと、傍から見たら逢引にしか見えないやり取りの中で顔を出す違和感。その正体は小心騎士と竜の娘に何をもたらすのか。
それでは第九話「心、うつろい」お楽しみください。
「揚げ魚、美味しかったです! ディアン様の言ってた通り、さくさくのふわふわでした!」
「口に合ったなら何よりだ」
軽めの昼食を取り、一息つく。ルビナは初めて食べた魚料理に満足しているようだ。だが、
「お、来たようだ」
ルビナの昼食はここからが本番だ。
「これが金色のお菓子……!」
ルビナは突き匙を持ったまま、菓子を見つめながら固まっていた。
「どうした。遠慮なく食べると良い」
「はい、でも、あまりにも見事で……!」
確かに卵と蜂蜜をふんだんに使った生地は金色と呼ぶに相応しく、添えてある砂糖漬けの果実の宝石のような輝きと相まって、食べ物なのに食べては勿体ないと思わせる風格がある。
「で、では、いただきます……!」
覚悟を決めたのだろう。突き匙を刺し、口へと運ぶ。
「~~~!!」
声にならない絶叫を上げるルビナ。舌か頬でも噛んだのかと思う程の反応だが、その後のとろけるような笑顔を見る限り、とりあえず口の中は無事そうだ。相当口に合ったのだろう。
「これは、何という、ふわふわで、甘くて、あぁ、美味しいです……」
「それは良かった」
ここまで喜ばれれば菓子も本望だな。
「ディアン様も一口どうぞ」
んん!?
「美味しいですよ」
差し出される突き匙。その先端にある金色の菓子。分かってる。ルビナに他意はない。今朝言っていた、美味しいものを一緒に食べたい、の一環に過ぎない。
だが! 今この状況で口を開けて受け取ろうものなら、恋人のそれ以外の何物でもない! 衆人観衆の視線が刺さる!
「ありがとう」
私は華麗に突き匙を受け取り、優雅に菓子を口に運ぶ。丁寧に布で突き匙をぬぐい、淀みなくルビナへと返す。よし、この上なく完璧に紳士的だ。
「うん、美味しいな」
「はい!」
どこからともなく舌打ちが聞こえる。何故だ。私は間違ってないはずなのに。
紳士はみだりにあーんなどしない、いいね?
読了ありがとうございます。