第八話 生まれた違和感 その四
「あの、失礼ですが、お二人はどういったご関係で?」
あ、しまった。どう見ても親子には見えない間柄で、名前を付けた、なんて聞いたら不審に思うのも無理はない。
どうやって誤魔化そう……。
「ディアン様は囚われて働かされる身だった私を救い出してくださり、名前も、食事も、衣服も、何もかもを与えてくださいました」
ルビナあああぁぁぁ! 正直すぎる!
竜って言わなかっただけ良かったけど!
「……はぁ、いわゆる元奴隷、というやつですか。成程……」
あぁ店主の軽蔑するような視線が痛い! 違う、その首輪はそういう意味じゃないんだ!
「近々彼女を故郷に送るので、何か思い出の品をと思っていてな。これ以外に何か赤い宝石のような装飾の付いた物はないか?」
「赤い宝石……。あぁ、それなら良い物がありますよ」
店主が奥に引っ込む。かと思ったらすぐに出てきた。手にした小箱の中には首飾り、その中央に紅く輝く……、え、ちょっと待て!
「旦那、こんなのはいかがですか」
何でこんな店に小粒とは言え紅玉が!?
待て落ち着け。本物かどうか分からない。
「ちょっと見せてもらえるか」
「どうぞ」
箱ごと受け取って素手で触れないようじっくり確認する。
造りはよくある鎖で首にかける形の首飾りだ。
宝石の鑑定は専門では無いが、色合いや質感から本物の可能性は高いように見えた。
「これは本物のようだが、どういった出自のものなのだ」
「おや、なかなかの目をお持ちのようだ。大抵のお客様はこんな店に本物がある訳がないって文句を言うものですが」
何か試されているのだろうか。
店主の鋭い目つきは変わっていない。
「出自は確かですよ。縁のある貴族が、死ぬ前に持ち物を整理したいと言われた際に買い取った物です。こういう仕事をしていると、雑品の整理の中にたまにこういった値打ち物が混ざるんですよ」
成程、そう言った経緯なら納得だ。
「とは言え先程申し上げた通り、こんな店で扱っていても買う客なんてまず来ません。なのでよろしければお譲りしますよ」
え。
「……ディアン様、これが私の名前の由来の宝石ですか?」
「あぁ、これは本物だ」
「……綺麗……」
ルビナの目は宝石に釘付けだ。
本物だとしたらとんでもない値段になるんだけど。
「……幾らになる」
「こちらでいかがです?」
ひぃ。
「こ、これは、ディアン様……」
書かれた金額に息を呑むルビナ。
だいぶ金銭感覚が身に付いてきたなぁ、などと現実逃避をしたくなる金額。
それでも相場からするとちょっと高いかなぁ位だから宝石の世界は恐ろしい。
「いかがです? 一生ものの贈り物になりますよ?」
確かに一生ものだ。
これを買ったら私のこれまでの生涯で貯めた貯蓄はほとんど消えてなくなる。
「ディアン様、私、こんな高い物を買って頂く訳には……」
だがルビナが独り立ちする時の支えになる物なら、紛い物より本物を選ぶべきだ。
それに首輪もどきを付けたルビナを連れ歩く位ならこの程度の出費、この程度、安い。これは安い買い物だ。
「折角だ。買おう」
「……ディアン様、よろしいのですか?」
心配そうに私の顔を覗き込むルビナ。慌てて血反吐を吐きそうな顔を微笑みに変える。
「これはきっとルビナの支えになってくれる。そう思えば安いものだ」
「ディアン様……! ありがとう、ございます……!」
さよなら私の貯金。
凄い値段してるだろ 嘘みたいだろ 定価なんだぜ それで……。
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