第八話 生まれた違和感 その二
「わぁ……」
噴水に見とれるルビナ。
竜族の国は質実剛健を体現したような国で、こういった見て楽しいけど特に意味はない、といったものは存在しなかったから、ルビナにとっても物珍しいのだろう。
喜んでいるなら良いことだ。金もかからないし。
「ディアン様、あの方々は何をしているのでしょう?」
「……硬貨投げだな」
「硬貨投げ、ですか」
「あぁ。噴水に背を向け、後ろ向きに硬貨を投げる。噴水に入ったら願いが叶うという言い伝えがあるそうだ」
「そうなんですね」
個人的には噴水の維持費のための創られた風習だと思っているが、野暮は言うまい。
「……やってみてもよろしいですか?」
「構わない」
このくらいの出費で済むなら軽いものだ。ルビナに硬貨を渡す。
「投げる前に硬貨を握って、願いを心で念じるそうだ」
「分かりました。では……、えい!」
気合と共に放物線を描く硬貨。
水音と共に噴水に吸い込まれていった。
「は、入りました?」
「あぁ。ちゃんと入った」
「良かったぁ」
噴水は大きく、後ろ手に投げても十中八九入るだろう。
こんな事で願いが叶うなら世の悩みなど何も無い、そう思ってはいるが、ルビナの喜びようを見ていると否定する気にはならない。
「ちなみに何を願った?」
私といつまでもいられるように、といった辺りだろうか。
「ディアン様がいつまでもお元気でいられますように、と願いました」
「そうか。ありがとう」
一瞬どきりとさせられたが、ルビナにしてみれば私が元気な限り傍にいられると思っているのだから、当然の願いと言えるだろう。
世の中言い方一つだなと改めて感じる。
「さて行くか。この町は広い。他にも面白い物が沢山見つかるだろう」
「はい!」
ルビナは元気よく返事をすると、少しためらいながら私の手を取った。
えぇい口笛を吹くな野次馬! 私がそっちだったら絶対やるけど。
「そうだルビナ、昼は肉と魚とどちらが良い」
「あ、えっと……、お肉……、お魚……。も、もうちょっと考えさせてください」
当たり障りのない会話をしながら、足早に噴水の広場を後にした。
ひゅーひゅー!
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