第八話 生まれた違和感 その一
前話までのあらすじ。
誇りを失い、不安から読心魔法を使った竜の娘に、心を読まれてしまった小心者の騎士ディアン。自らの小心さが露呈した事に動揺するも、罪悪感から死を望もうとする竜の娘の依存を断ち切るべく、小心騎士は様々な案を巡らせる。果たして竜の娘が自立に至る道はあるのだろうか。
では第八話「生まれた違和感」お楽しみください。
「では行こうか、ルビナ」
「はい」
朝食を済ませ、街へ繰り出す。天気も良く、街を歩くには良い日だ。
「まずはどこに行こうか。どこか行きたい所はあるか」
「ディアン様の行きたい所へ連れて行ってください」
だからそうじゃなくて。
本当の希望を言うなら今から部屋に戻ってごろごろしたいぞ。金もかからないし。
「ではぶらぶらと歩いてみて、ルビナが気になった所に行ってみよう。歩いていて気になる場所があったら言うと良い」
「分かりました」
さて、まずは大通りに。いつも通り賑わっている。
はぐれると面倒だな。万が一に備えて待ち合わせ場所を決めておくか。
「ルビナ、人手が多い。はぐれた場合は宿に戻るように」
「分かりました。あの、でもはぐれない方が良い、ですよね?」
「勿論だ」
「では、あの、手に掴まっても、よろしいでしょうか……?」
「それなら」
外套の裾を、と言いかけて着て来なかった事に気づいた。他に掴めるようなものも無い。
「構わない」
「ありがとうございます」
遠慮がちに握ってくる小さく柔らかい手。
「ディアン様の手は大きいですね」
「そうか」
ん? 何だ? ほんの僅かな違和感……。
気のせいか?
「あ、ディアン様! あれは何ですか?」
「この町の名物の一つ、大噴水だ。行ってみるか」
「はい!」
とりあえず今はルビナの希望を叶えていこう。
いずれこの手をルビナが引いて行きたい所に行けるように。
そしてその手をルビナが離せるように。
保護者として手を繋いだつもりだろうけど、どう見ても……。
読了ありがとうございます。