第七話 伝わる想い その四
着替えて顔を洗い、食堂に降りると、早立ちの客だろうか、既に何人かが思い思いに食事をしていた。
「あらお二人さん! おはようございます! 早いねぇ!」
「あぁ、おはよう」
「おはようございます」
「ねぇねぇどうでした昨晩は!」
満面の笑みの女将。何を期待しているのか隠す気がないのが潔い。
「ありがとう。良く眠れた」
「もう! はぐらかして! ね、お嬢ちゃんどうだった?」
「え、あの……」
私の口が堅いとみてルビナに振る女将。
あ、しまった。ルビナに今朝の件口止めしてないけど、大丈夫か?
よもや心を読んだとか別れの約束だとかの話はしないとは思うが……。
「えっと、最初は辛かったですけど、ディアン様とより深く通じ合えた気がします」
ルビナあああぁぁぁ! 間違ってない! 間違ってないけど言い方ぁ!
「あらあらまぁまぁ!」
そういう反応になるよな! 当然だよな!
「初めてってそうよね! でも優しくしてもらえたんでしょ?」
「はい、とても。私の事を心から考えてくださって……」
何で噛み合うのこの会話!
これだと完全に初めての夜を越えた恋人じゃないか!
「おめでとうございます! お祝いに朝食に果物おつけしますね!」
ここまで誤解されたら、何を言っても照れ隠しとしか取られないだろう。
否定するのも疲れた。貰えるものは有り難く貰うことにしよう。
「女将さん、また嬉しそうでしたね。何故でしょう?」
「さてな」
ルビナに男女の事を教えるべきかと思ったが、それで恋人としてのあれやこれやを求められたらややこしい事になる。
軽く流して私はルビナと朝食の席に着いた。
諦めも肝心。
第七話終了となります。
読了ありがとうございます。
次話から第八話「生まれた違和感」になります。
今後ともよろしくお願いいたします。