第七話 伝わる想い その二
「……取り乱して、申し訳ありませんでした。以上で、ございます……」
顔を上げたルビナの表情には、涙の跡と覚悟があった。
許しも命も乞うことのない姿。
潔いと言うべきか、諦めが早いと言うべきか。
「……良く分かった」
ルビナに死なれる訳にはいかない。
そのための答えは簡単だ。許すと言って今まで通り傍におけば良い。
だがその後はきっと私に恐れられぬよう、捨てられぬよう、小さく縮こまって生きる事になる。
そして萎縮したままのルビナは、私と離れた時に生きる意味を見失うだろう。それでは駄目だ。
……責任は取らなければなるまい。
「ルビナ、私は竜が怖い」
「!」
「無敵とも思える身体に膨大な魔力、高度な知恵と高貴な誇り。人間という弱い存在が相対するには竜は強すぎる」
「……は、い……」
「だが同時に、ルビナには幸せになってほしいと願っている。これも事実だ」
「……え……?」
予想もしていなかったのだろう。ルビナが完全に呆ける。
その様子を見るに、思った通り心を読んだと言っても、私の恐怖の感情を読んだ時点で衝撃を受けて魔法を解除したのだろう。
「え、あ、あの、私の幸せって、え、え?」
「最初は竜の国の報復を恐れてルビナを保護した。風の魔法を自在に操るのを見て怯えたりもした。だが食事に喜ぶ姿にもっと良いものを食べさせたくなったり、服に喜ぶ姿に買って良かったと思ったり、横で無防備に寝る姿に、その、恐怖以外の感情を持ったり、単に恐ろしい竜とは思わなくなっている」
「え、あの……」
私が何を言いたいのか、理解しかねているのだろう。目を白黒させるルビナ。
「つまり私は以前ほどルビナを恐れてはいない」
「!」
困惑が吹き飛ぶほどの喜色。
だがそれも一瞬のことだった。
「以前ほど、ということは、今も恐いという気持ちは……」
「ある」
「!」
恐怖の感情を知られている以上、そこは誤魔化しても仕方がない。
「だが、傍にいるだけで苦痛に思うほどの恐怖ではない。力はあれどルビナに私を害しようとする気持ちが無い事は十分に承知している」
「も、勿論です!」
「心を読まれたという事に驚きはしたが、そこに悪意があっての事ではないのも分かっている」
「ディアン様……」
「つまり今ここでルビナを罰したり追い出したりする気はない」
「え、あ、ありがとうございます……!」
ようやく安心した表情を浮かべるルビナ。
これを崩さないといけないのは心苦しいが……。
責任を取る(意味深)。
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