第七話 伝わる想い その一
前話までのあらすじ。
誇りを失った竜の娘を連れて、何とか街まで着いた小心者の騎士ディアン。師への手紙も無事送り、ようやく一息と思ったのも束の間、女将の誤解から二人は相部屋となってしまう。酒も入り、寝台は一つ。何が起きてもおかしくない状況を、小心騎士は乗り切ることは出来るのか。
それでは第七話「伝わる想い」お楽しみください。
……泣き声がする。
必死に押し殺して、それでも漏れてしまう、悲痛な声だ。
こんな声、近くからしか聞こえないはずなのに、なぜが遠く感じる。
「ルビナ……?」
目を開けると木の天井。えっと、ここはどこだっけ。
そうだ、街に着いて、ルビナと食べ歩きをして、手紙を出して、夕食に酒が出て、二人で寝台に入って……。
「うぐっ、ひっく……」
「!」
しゃくり上げるルビナの声に一気に意識が覚醒する。
声のする方を見ると、ルビナが背を向けて肩を震わせていた。
「どうしたルビナ。怖い夢でも見たのか」
「ディアン様……」
振り向いたルビナの顔は壮絶だった。
後悔、懺悔、恐怖、諦念、その全てがあり、そのどれでも足りない。
絶望という言葉を体現したかのようなルビナ。一体どんな夢を見たと言うのか。
「……もう、私は生きていく事が出来ません……」
……ちょっと待ってまさか私、男の本能に任せてルビナに手を出したのか!?
いや身に覚えはないけど昨日は酒も飲んでいたから全く無いとは言い切れないし、ここまでルビナが思い詰める理由が他に思い当たらない!
「……自ら命を絶とうと思いましたが、私の命はディアン様のもの、勝手に捨てる訳にもいきません。……どうか私に死を命じてください……」
ルビナの命を所有した覚えはないし、今後する気もないけど今はありがとう! 命は大事!
「何があった。何故そこまで思い詰める」
「……それは、どうか、聞かずに……、お慈悲を……」
出来るかそんな事おおおぉぉぉ! っていうか何!? 私どこまでとんでもない事したの!?
「命に関わる話を聞かずに済ませる訳にはいかない」
「……」
「ルビナ、辛いかもしれないが話してくれないか」
「……分かり、ました……」
ルビナを追い込むようで気が進まないが、理由も分からず死ぬ訳にも死なれる訳にもいかない。
「私は……、許されない事をしました……」
ん? 私のせいじゃない? なら助かった?
私がルビナを許せば誰も死ななくて良いのでは?
「……私、不安で、ディアン様が寝ている間に、魔法で、お心を……」
え、竜の読心魔法!? ルビナに使えたのか!?
「そして、ディアン様が、竜を、わ、私を、お、恐れて、い、らっしゃる、のを、知り、ました……」
げ。
「それ、なのに、私、ディアン様に、大事に、していた、だけている、などと、浮かれて……」
あー、やっぱり死ぬんだ私。
ルビナが今まで喜んでいたものが、ルビナを想っての事ではなく、恐れての事だと知ったら、いやそれだけじゃなかったけど、信頼関係だろうと恋愛感情だろうと粉々だよなぁ……。
怒って当然だよなぁ。厚切り肉食べておけば良かったなぁ。
「私、情け、なくて、申し訳、なくて……!」
ん? 何が? 何故? 情けなくて申し訳ないのは私ですが?
「ディアン様が、私と、いるだけで、負担に、思われて、いたのに……、それでも、それを知っても、浅ましくも、お傍を、離れたく、なくて……、でも、心を、覗くような、最低な、事をして、許される、はずもなく……、お傍に、いられないのなら、もう、死んで、しまい、たい、と……」
泣き崩れるルビナ。私は様々な感情が渦巻く中、じっとそれを見ていた。
二人して死の覚悟。
読了ありがとうございます。