第六話 片時も離れずに その六
部屋に入ると、ルビナは寝台にごろりと横になった。
「ふう、お腹一杯になりましたぁ」
「それは良かった」
本当に良かった。
あれでまだ足りないって言われたら、もう樽ごと持ってくるしかない。
「ルビナ、気分は悪くないか?」
「とんでもないですぅ。私、今幸せな気持ちでいっぱいでぇ夢みたいですぅ……」
夢みたい、か。確かにそうだな。
竜を保護して二人旅なんて、それこそ夢でもそう見ない状況だ。
ここまではとりあえず何とかやってこれたし、出会った頃よりルビナに対しての恐怖心は多少減ったが、これからの事を考えると……。
「夢なら良かったな」
「え?」
跳ね起きるルビナ!
いかん! 久しぶりに酒を飲んだからか口が滑った!
「いや、ルビナの兄上が尻尾を切られたり、ルビナが村に捕まったりしたのも全部夢だったら、こんなに良い事はないだろうに、そう思ってな」
「そう、でしたか。そうですね、確かにそうです」
何かを確かめるように何度も頷くルビナ。
「でも、そのおかげでディアン様と会えたのですから、やはり夢では困ります」
にっこり微笑むルビナ。
良かった。気分を損ねたわけではないようだ。
「すまない、私も酒に酔っているようだ。変な事を言ってすまなかった」
「と、とんでもないです! 私の身のみならず兄上の身まで案じてくださってありがとうございます」
酒のせいか気の緩みか、このまま会話を続けるのは危険な気がする。早々に寝てしまおう。
ってあ! 着替えどうしよう! 寝巻の方がゆっくり休めるけど、どこで着替えさせようか。
私が外で着替えれば良いのだが、それを言えばルビナは自分が外で着替えると言うだろう。
「ルビナ、寝巻に着替えるとしようか」
「分かりました」
私がルビナの方を見なければ良い。ルビナに背を向けて手早く着替える。
衣擦れの音で着替え終わったのを判断して、ちょっと間を置いて振り返る。
よし、ちゃんと着替えているな。
「夜も更けた。そろそろ寝るとしようか」
「はい。……あの、今日もディアン様と寝ても良いですか……?」
ベッドは一つしかないから、一緒に寝るしかないと女将は思っているだろう。
だが甘い。私には床に寝るという選択肢も
「あの、ご迷惑かも知れませんが、ディアン様が傍にいてくだされば、これが夢だなんて思わずに済みますから……」
無かった。
ルビナの怯えた表情から察するに、私が夢なら良かったなどと言ったせいで、今の状況が夢で目が覚めたら元の馬小屋、みたいな最悪の状況が頭をよぎったのだろう。
「構わない」
「ありがとうございます」
さすがに今から鎧着けたらおかしいよな。
仕方ない。身一つで耐えるしかない。
「では明りを消すぞ」
「はい」
私が身を起こすよりも先に、ルビナの声に合わせてふっと明りの火が消えた。
わぁ魔法って便利。
「ディアン様、おやすみなさい」
「おやすみ、ルビナ」
身体の中に残る酒よ。
今こそその力を私に貸してくれ。この腕に当たる柔らかさと、甘い香りから私を夢の世界へと救い出してくれ。
どきどき同衾編第二幕。
第六話終了となります。
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次話から第七話「伝わる想い」になります。
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