第六話 片時も離れずに その五
……後悔先に立たずとは良く言ったものだ。
「ねーちゃん! いーい飲みっぷりだなぁ! ほれ! これは俺らからの奢りだ!」
「ありがとうございます。皆様とても良い人ですね」
おぉう、酒瓶八本目。
一本も注文していないのに酒瓶が増えていく恐怖。
「ディアン様ぁ、お酒って美味しいものですねぇ」
「……口に合ったなら何よりだ」
最初の一口で酒を気に入ったのか、軽々と飲み干したルビナ。
器を空のままにしているとまた女将がうるさそうだから、と注いだら飲むこと飲むこと。
最初の一瓶があっという間に空になり、これで終わりと思っていたら、飲みっぷりに感心したのか周りの客から次々と酒瓶が差し入れられ、今に至る。
「ディアン様にもお注ぎしますねぇ」
「あぁ、ありがとう」
私はようやく三杯目。
私も任務でなければ人並みに飲むのだが、いつ決壊するか分からない堰の真横にいるようで、酔うどころか酒の味すら分からない。
今のところルビナに酔って豹変するような兆候が見られないのだけが幸いだ。
「楽しいですねぇディアン様ぁ」
いや! 顔色や行動は普通だけど微妙に口調がおかしい!
やっぱり竜も酒に酔うのか!
飲む量が尋常じゃないから影響はないのかと思ってた!
「ルビナ、食事は済んだ。そろそろ部屋に戻るか」
「はぁい」
「いいじゃねぇかもうちょっと! ねーちゃんもまだまだ飲めるんだろう?」
やめて! この町を火の海にする気!?
「皆様、大変ごちそうさまでした。ルビナもお礼を」
「ありがとうございました。お酒、美味しかったです」
「えぇ~、もうちょっと付き合ってくれよ!」
「ほらほらお前さん達! あんまり若い二人の邪魔するもんじゃないよ!」
女将が追いすがる客達をあしらってくれる。有り難い。
「そろそろ二人っきりになりたい時間ですもんねぇ、騎士様」
返せ今の感謝の気持ち。
「お代は朝食の時にまとめてで結構ですので、ごゆっくり!」
「……ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
ルビナを連れて食堂を後にする。
後ろから頑張れだのいいなぁだの二人の夜に乾杯だのとわいわい盛り上がっている。
他人事だと思って気楽なものだ。
私もそっち側になりたい。
今夜はお楽しみですね。
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