第六話 片時も離れずに その三
夕暮れの道を、ルビナと二人公衆浴場へと向かう。
軽装鎧を外したから身体は軽くなったが、心の重さは取れない。
汗を流せば少しは気が楽になるかな。
「ディアン様、公衆浴場とはどのような所なのですか?」
そうだ。ルビナに公衆浴場の使い方を教えておかないとな。
中では別々だし、何かあっても助けに行けないし。
「ルビナ、まず公衆浴場は中は男女別になっている。女性用で洗ってくるように」
「え、ディアン様と別なのですか……」
さっと不安な色を浮かべるルビナ。
やっぱり分かっていなかったか。危なかった。
そのまま男性用に入って来られたら大変な事になっていた。特に私が。
「何、汗を流すだけだ。すぐにまた会える」
「……分かりました」
よし、納得してくれた。次は使い方だな。
「次に使い方だが、一昨日の河原での水浴びを覚えているな」
「はい」
「あのように身体を洗えば良い。お湯と石鹸で全身を洗い終えたら、泡を流して身体を拭いて、使っていない服の方を着るように。分からない事があれば、周りの様子を見て真似れば大丈夫だろう」
「分かりました」
まぁこれで大丈夫だろう。ルビナは飲み込みが早いからな。
「あぁ、それとここでは魔法を使わないように。風で髪を乾かすのは宿に戻ってからだ」
「分かりました」
……大丈夫だろうか。
一応町では一晩別で過ごしたから離れるのは初めてではないが、昨晩の不安をどこまで引き摺っているかが問題だ。
とは言え今出来る事は何も無い。
「いらっしゃい」
「男女一人ずつだ」
「あいよ」
「では後でな」
「……はい」
中に入ると、幸い人はあまり多くない。出来るだけ早く済ませて出るとしよう。
「ふぅ……」
身体を拭いて綺麗な肌着に袖を通すと、やはり気分が良くなる。
さて、ルビナが出て来るまで少し時間もあるだろう。
入口が見えるところで少し店でも覗いてみるか。
「ディアン様!」
何!? ルビナがもう入口に立っている!?
「早いなルビナ。待たせたか」
「少しだけです」
万が一にも待たせないようにとなるべく早く出てきたつもりだったんだけど!?
不安でろくに入っていないんじゃないかと思ったけど、髪はしっかり濡れてる。
何をどうしたら私と同じ時間で、この長さの髪をきちんと洗えるの!?
「では行くか」
「はい」
洗う速さに驚くべきか、それを駆使してまで早く上がったルビナの心理を心配するべきか、良く分からないまま私は宿へと足を向けた。
公衆浴場女湯の部、最速記録を叩き出したとかしなかったとか。
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