第一話 小心騎士と竜の出会い その三
……さて、寝静まったみたいだな……。気づかれないように部屋を抜け出し、馬小屋へと入っていく。
『竜の君よ』
「!?」
驚いたように顔を上げる大蜥蜴(仮)。竜言語が伝わるという事は、やはり……。
『竜言語はかじった程度ですが、伝わりますか?』
『……はい……』
『これならば村人に聞かれる心配もありません。ご事情を伺ってもよろしいですか?』
『……お恥ずかしい、限りでございます……』
竜は細々と話し始めた。
『竜族は周囲の国々への監視と示威のために、時折国を出て巡回をしております。ある時から巡回に出た竜族が人間に尾を切られる事件が続きました。その調査に出た兄も同様に尾を切られ、父や周りの者から人間に後れを取るとは何事かと責められておりました』
さっき聞いたあれか……。やはりここの村人は竜を捕まえては尻尾を切っていたのか。
しかし無敵とも思える竜族を、何の装備も無さそうな村人がどうやって……?
『私はそれが許せず、怒りに任せて国を飛び出しました。周りからは止められましたが、兄の尾を切った人間を捕えて引き立ててやろうと……』
当然だろう。竜族の誇りから言えば、犯人を総出で見つけ出し八つ裂きにしても無理はない。
それを周囲が止めたのは、何故下等だと思っていた人間に遅れを取ったのかが分からなかったからだろう。
『そして……』
『逆に捕まってここに、という訳ですか』
『……最初は抵抗を致しました。誇りある竜族である私が、人間に捕らえられ、あまつさえ労役を強いられようとは、と』
それは当然だと思う。私だって無理に捕まえられて働けと言われたら、抵抗の一つや二つはする。負けるけど。
問題は、その気になれば人間など歯牙にも掛けない力を持つ竜に、何故それが出来なかったか、だ。
『しかし何故か魔力が身体から失われ、争う事も、飛んでこの場を離れる事も出来ませんでした。それどころか尾を掴まれ、畑に引き摺り出される始末……』
竜にも理由が分からないのか。それが知れたら何か対策が出来るかと思ったんだけど。
『……最早私は竜としての力も誇りも失いました。親にも祖先にも申し訳が立ちません。ここで大蜥蜴として朽ち果てようと……』
それが困るんだよおおおぉぉぉ! 竜族との関係に油撒いて火付ける様な真似やめてえええぇぇぇ!
『ともあれ、今しばらくお待ちください。どうか竜の魂をお捨てにならないように』
『……お心遣い、ありがとうございます……』
諦めの色の濃いままそう言って、竜はそっと目を閉じた。
これ以上は何を言っても無駄だろう。私は一礼して、馬小屋を後にした。
私を竜と呼ばないで。
読了ありがとうございます。