第六話 片時も離れずに その一
前話までのあらすじ。
力を取り戻しつつある竜の娘の扱いに悩む小心者の騎士ディアン。一刻も早く師に判断を仰ぐべく、街から早馬を頼もうとするが、食べ歩きについ時間を取られ、担当者からせっつかれながら小心騎士は手紙を書くのであった。
では第六話「片時も離れずに」お楽しみください。
何とか手紙が早馬に間に合い、私とルビナは紹介された水鳥亭へと到着した。
……ふむ、年季は入っているようだが玄関に塵はなく、丁寧な仕事が見受けられる。
「いらっしゃい! お泊りで? お食事で?」
年配の女将が大きな声で出迎える。
見ると一階は食堂兼飲み屋のようだ。
「あぁ、数日逗留したい。ここは騎士団の詰所に顔が利くと聞いたのだが」
「えぇ! うちはよく旅の騎士様がお泊りになるんでねぇ!」
門番の言う通りだな。
料金は……、ふむ、食事が別でこの料金なら、多少手紙の到着が遅れても問題ないだろう。
いざとなったら食事で調整する事もできそうだ。
「ではお願いしよう。王都からの連絡待ちなので何日泊まるかは決まっていないが、最低でも四日は世話になる」
「かしこまりました! お部屋は一つで?」
「いや、二つ頼む」
宿泊費が倍になるのは痛いが、やはり別の部屋で過ごす方が
「ディアン様、なぜ二部屋必要なのですか?」
ルビナ!?
「んまぁ~!」
女将!?
「駄目ですよ旦那! こういうのは男から言わないと!」
この上なく分かりやすく誤解をする女将。
「いや、待ってくれ。彼女はそういう事ではなく」
「女がその気になってるんだから、恥かかせるもんじゃないですよ! 荷物お預かりしますね? じゃあお部屋にご案内します!」
「だから、その」
荷物を持って行かれるとどうしようもない。
やむなく付いて行くと、にこにこ顔の女将が部屋で待っていた。
「どうですかこのお部屋! 文机もありますので騎士様のお仕事にもお役に立ちますし、衣装入れも大きいですし、ほら、寝台もこんなに大きいんですよっ! お二人でも十分使えますっ!」
明らかに寝台の紹介に力が入ってる。
「いや、だから」
「はい、鍵はこちら。お手洗いと洗面所はさっきの階段を降りて左手。二軒隣に浴場がありますので汗を流すならそちらで! 夕食と朝食は下の食堂で食べてくださいね!」
「あ、あぁ……」
流れるように案内して部屋から出ていく。
二部屋の出費に対するためらいがあったとは言え、全く交渉できずに押し切られた……。
商売は力だという実家の教えが、不意に頭をよぎった。
「お嬢ちゃん、頑張るんだよ!」
「は、はい?」
扉から顔だけ出して片目をつぶる女将の言葉に戸惑うルビナ。
余計な事を言わないでくれ!
平穏は犠牲になったのだ、部屋代と喜劇展開の犠牲にな……。
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