第五話 守るべきもの その五
「わぁ……!」
ルビナが驚きの声を上げる。城壁の外からでは見えない賑わいに興奮しているようだ。
「これまでの村や町とは活気が違いますね」
「あぁ、城壁によって守られている安心感が、街の活気を生むのだろうな」
「守られると活気が生まれる……、そうですね」
ルビナが私を見て納得したという表情を浮かべる。
ルビナは私に守られて元気が出てるとかそんな風に思ってるのか? そんなことないからね? むしろ今朝守られたのは私の方だからね?
「さて、これから騎士の詰所に行って書類を送る手続きを行う」
「はい」
「それが終われば返事が来るまでしばらく時間ができる。宿を取って少しのんびりしよう」
「分かりました」
道を歩きながらこれからについてルビナに説明していると、通りの至るところから良い香りがしてくる。
丁度昼時だ。腹が減った。ルビナも話を聞きながらも左右の店をちらちらと見ている。
お、そうだ。
「詰所では手紙を書くので少し時間がかかる。ルビナ、先に昼食を済ませておくといい」
「いえ、ディアン様のお仕事が終わるまでお待ちいたします」
気持ちは嬉しいが、ルビナにはこれまでの事があるから、あまり空腹を我慢させたくない。
師匠への手紙を書く間、万が一にも覗かれないようにしたいというのもあるけど。
「その頃には定食屋などは昼の営業を閉めてしまう可能性があるのだが」
「大丈夫です。ディアン様とご一緒出来るのであれば、何を食べても美味しいですから」
う。そんな事を言われると反論が難しい。強く言えば従いそうな気もするけど、ここは私が折れよう。
「分かった。では少し寄り道をしよう」
「はい」
露店の串焼き肉を二本買い、一本をルビナに手渡す。
「これは?」
「牛肉を串に刺して焼いたものだ。これで小腹を満たそう」
「ありがとうございます!」
道の端に寄って肉を頬張る。おぉ、中から肉汁が溢れてくる。
一口では入りきらない程の大きさに切って炭火で焼くことで、肉汁を維持できるという訳か。
味付けを塩だけにする事で、肉の旨味が一層引き立っている。
その肉が一串に三つ。うん、なかなかの量感だ。これだけでもしばらく腹は持つだろう。
「ルビナ、どうだ?」
「! お、美味ふぃ、れす!」
ルビナは肉を口いっぱいに頬張って、返事に窮していた。ごめん、見てから声かければ良かった。でもこの食べっぷりを見るにやっぱり空腹だったんだなぁ。……仕方がない。
「ちょっとこの串を持っていてくれ。今飲み物とあの店の麦餅を買ってくる」
「?」
私の意図を図りかねた様子だが、ひとまず串を受け取るルビナ。
「この肉を麦餅の間に挟んで食べたら美味しいと思わないか」
「! ふぁい!」
この笑顔と満足を守るためなら、少しくらいの寄り道もいいだろう。
飲み物と麦餅を持ってルビナの元に向かいながら、私はそんな事を考えていた。
「時間は守ってもらわないと困るんですよねー」
「申し訳ない、あと数行なので……」
早馬の担当者にせっつかれながら師匠への手紙を大急ぎで書くのも、ルビナの笑顔を守るための代償なら、うん。
「あーもー間に合わないんで出発しますよー!」
「頼む。待ってくれ。あと署名だけで……」
締め切りは守らねば。
第五話終了となります。
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次話から第六話「片時も離れずに」になります。
今後ともよろしくお願いいたします。