第五話 守るべきもの その三
男達が見えなくなったところでようやく一息ついた。
「ルビナ、あの木陰で少し休もう」
「……はい」
大して進んでいないが、余計な騒動で疲れた……。
背嚢からしまったばかりの敷物を広げ、腰を下ろす。
喉がからからだ。水筒の水が美味い!
「……あの、ディアン様」
「何だ」
「余計な事をして、申し訳ありませんでした……!」
いきなり深々と頭を下げられるとびっくりする。
「そうでもない。助かったぞ」
「いえ、先程ディアン様が騎士と名乗られたら、すぐに場が収まりました」
いやー、どうだろ。
あれは弱っていたからで、最初から騎士を名乗って糾弾してたら、追い詰められた彼らは罪から逃れる為に、私を畑の肥料にしてたかも知れない。
「それに傷付けられたにも関わらず、怒りもせず彼らを心配しておられました」
どっちかって言うと心配したのはルビナの事だし、彼らを見逃したのはちょっと共感したのもあるけれど、後日またここを通る可能性があるからだ。
下手な事をするとまた襲われかねないし。
「怒りに身を任せ、ディアン様のお邪魔をするところでした。本当に申し訳ありません……」
深々と頭を下げるルビナ。うーん、どうしたものか。
このままだと折角取り戻しつつある自信を失ってしまう。
かといってあの力を感情のままに使われても困る。
となれば気は進まないが、私に持っている虚像の信頼感を利用させてもらうとしよう。
「ルビナの力は素晴らしい。先程助かったと言うのも偽りでは無い」
「ディアン様……!」
「力ある者は自分の振るう力の影響を考える必要がある。これから力を使おうとする際には、一度それを考えると良い」
「……はい」
「その上で行使するべきか否か迷うのならば、私に訊け。それを繰り返す内に、いずれ自分の力の正しい使い方が身に付く」
「はい!」
ずば抜けて優秀な弟子を持つ師匠というのはこういう気分なのかな。
自分が教えて良いのかどうか不安になる。
「それでは行くか。今ならまだ昼過ぎには着けるだろう」
「はい!」
元気な返事に少し救われつつも、どんどん増える課題に、ルビナに気づかれないようにこっそりため息をついた。
抑止はつらいよ。
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