第四話 闇の中の光 その四
「いただきます」
「いただきます」
枝を削って作った串に刺し、炙られた燻製肉が脂を浮かせ始めたところで、私とルビナは口に頬張った。
うん、脂が口の中でとろけて美味い。さすが畜産の町の燻製肉だ。
「美味しいですディアン様」
「ルビナが火を起こしてくれたお陰だ」
「あ、ありがとうございます」
うーん、まだどことなくぎこちない。一晩寝て忘れてくれると良いんだけど。
「芋餅も少し炙ると柔らかくなるはずだ」
「やってみます」
お、こちらも炙ればなかなかのものじゃないか。
「これならさほど顎も疲れずに済むな」
「そうですね。それに香りも出て美味しいです」
「そうだな」
自然と会話も和やかなものになる。うん、良い傾向だ。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
「……」
「……」
会話が尽きた。こっちから話題を振るとまたどんな落とし穴があるか分からない。
ルビナは日中よりは砕けた雰囲気になってはいるが、進んで話しかけてくる程ではない。
結果沈黙が続く。
「さて、そろそろ寝るとしよう」
する事がないなら寝てしまうのが一番だ。
「あ、あの、ディアン様……」
ルビナが珍しく声をかけてきた。
……思いつめたような様子だが一体何だろう。
「た、大変申し訳ないお願いなのですが……」
躊躇いつつもここまで言うという事は、ルビナにとって重要な事なのだろう。
「聞こう。何かな」
「今晩、ディアン様と、ね、寝ても、良い、でしょうか……」
んんんんんん!?
反射的にいやらしい展開を想像する悲しい男の本能を抑え込み、思考を冷静の側に力ずくで捻じ曲げる。
寝るというのは睡眠のことだし、これは仮の姿だし、元は竜だし!
「理由を聞こう」
何とかして断りたい! この姿を意識しても竜の姿を意識しても、まともに寝られる気がしない!
「先程の、あの、不安で、ディアン様が、い、いなくなって、しまったらと、思うと、眠れなさそうなので……」
断りにくい! 不安がらせたのは私が悪いのだが、依存に向かって一直線じゃないかこれ?
「ふむ……」
「あの、子どものようなお願いで申し訳ありません。……ご迷惑でしたら、その……」
子ども、か。
以前読んだ子育てに関する本では、甘えてくる子どもの自立を促すには、突き放すよりも受け入れた方が早いとあった。
突き放すと欠乏を覚え必要以上に甘えるようになり、受け入れると満足し自立に向かうという。
……ならば。
「構わない」
「え、あ、ありがとうございます!」
……さよなら私の安眠。
どきどき同衾編開幕。
読了ありがとうございます。