第四話 闇の中の光 その二
日が傾いてきた。地図を見ると今日中に次の街に着くのは難しそうだ。
街道から森に入り、やや開けた場所を見つけた。
「ルビナ。今日はここで野営するとしよう」
「分かりました」
私が背嚢を下し、中から敷物を広げると、ルビナも胸の前で抱えていた背嚢を敷物の上にそっと置いた。
やっぱり宝物扱いなんだなぁ。
「あの、ディアン様、私は何をお手伝いしたらよろしいでしょうか」
感傷に浸ってばかりもいられない。
日が落ちる前に火と水を確保しなければ。
「そうだな。薪になりそうな木の枝を集めてもらえるか」
「分かりました。どういった物をどの位集めて参りましょうか」
「地面に落ちている小枝で、葉がなく乾燥しているものがいい。両手で抱えられる位あれば十分だ」
「分かりました。行って参ります」
有能だなぁ。以前新人に野営の訓練をした時は説明を碌に聞かず、生木を集めて煙まみれにする奴や、四、五本しか集めてこない奴、果ては木を切り倒し始めた奴までいたからな。
地図を広げて川の位置を再確認する。ルビナが薪を集めている間に汲んでおこう。
水筒を持って少し歩くとせせらぎの音が聞こえてきた。
おぉ、綺麗な川だ。さて水を汲もう。
良い景色だ。深緑が夕日の赤を反射して、何とも言えない輝きを見せている。
こっちにルビナを来させたら良かったかな。
景色の話題なら無難に話ができそうな気がする。
水を満たした水筒を持ち、荷物の所へ向かうと、声が聞こえた。ルビナの声だ。涙声、私を呼んでる? 何かあったのか!?
急いで戻ると私を呼びながらおろおろ動き回るルビナが見えた。
「どうしたルビナ」
「……ディアン様……」
私の姿を見るなり膝をつくルビナ。慌てて駆け寄る。
「大丈夫か、何があった」
「薪を集めて戻りましたらお姿が見えなかったので、置いて行かれたのではないかと、急に不安になって、しまい、ました……」
泣き出すルビナ。
しまった。あまり反応を示さないから意識していなかったが、ルビナにしてみれば今この状況で私は唯一の寄る辺だ。
見捨てられたと思ったら、どうしていいか分からなくなるのも無理はない。
しかしこんな不安を感じさせてしまっては、この先私から離れる事そのものが即不安につながり、信頼ではなく依存になってしまう恐れがある。
これでは竜の誇りを取り戻すどころか、私の従僕に成り下がってしまうだろう。
ここは少し突き放して自立を促した方が……。
「ディアン、様、申し訳、ありません、このような、弱い、私、どうしたら……」
「何も言わず場を離れた私が悪かった。ルビナは何も悪くない」
「!」
抱きしめた背中が小さく跳ねるのが伝わる。
「不安にさせて悪かった。安心しろ、私はルビナを見捨てたり見放したりする事は無い」
「ディアン、様ぁ……」
子どものように声を上げて泣くルビナ。
首筋が幾重もの涙で濡れる。
理性ではなく感情で選び取った選択肢。
普段の私なら悪手と断ずるそれが、今の私にはどうしても間違いだとは思えなかった。
竜を大胆に抱い……、いや、何でもないです。
読了ありがとうございます。