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第三話 一難去ってまた二難 その五

「おや騎士様、お夜食でもご入用ですか?」


 厨房を覗くと料理人がまだ作業をしていた。

 良かった、窯の火もまだ落としていないようだ。


「いや、少し試したい事があってな。少し厨房を借りても良いか」

「えぇ、あまり遅くならなければ」

「助かる。それと、芋と卵、牛乳と塩、あと油を使わせてもらえるか」

「それなら沢山ありますので構いませんが……、一体何を?」

「王都で一時流行った料理の作り方を確認したくてな」

「分かりました。こちらが手洗い場です。どうぞ」

「ルビナ、手を洗って手伝ってくれ」

「はい」


 手を洗うと湯を沸かして芋を吹かす。

 火が通ったらルビナにも手伝ってもらって皮を剥き、潰しながら卵と牛乳、塩と油を混ぜていく。

 まとまってきたら一口大に丸めて窯で焼く。


「騎士様、これは一体……?」

「芋餅だ。食べてみてくれ。ルビナも味見を」

「ありがとうございます。いただきます」


 歯を当てるとかりっという音、さらに力を入れると噛み応えのある生地。うん、上出来だ。


「こりゃうまい! 麦餅とは少し食感が違いますが、これはこれで良いものですな!」

「美味しいですディアン様」

「それは良かった」


 よし、これで何とか町長の依頼は果たせそうだな。


「ルビナ、明日の朝皆の前でこれを作ろうと思う。手伝ってくれ」

「分かりました」


 よし、これで枕を高くして眠れそうだ。とりあえず今晩は。





「お見事でございました、ディアン様」

「大した事ではない」


 本当に大した事じゃなかった。昨夜試作した芋餅を町の広場で教えただけだ。

 今後を考えると、行商人の言い値を払って調子づかせるより、これで凌いだ方が良いはずだ。主食が手に入り、町の人々は喜んでいた。

 町長は微妙な顔をしていたが。


 ついでに気になっていた崩し芋に牛乳を加えて深みを増す一工夫を伝えた。主婦層は大喜びだった。

 料理屋の店主は微妙な顔をしていたが。


「皆様、喜んでいました」

「騎士たる者、民の為に力を尽くすのは当然の事だからな」


 結果として町に居づらくなったので、早々に出立する羽目になったけど。


「あの時ルビナと話しておいて良かった」

「……私はお役に立てたのでしょうか」


 自信なさそうに俯くルビナ。まぁ実感は無いか。

 だがここで少しでも自信を持ってもらわないと、いつまで経っても誇りは戻らない。


「自らの皮を剥いでまで私に尽くそうとしてくれた事が、解決策を思い付く切っ掛けを与えてくれたのだ。それに芋餅作りも手伝ってくれて助かった。感謝する」

「!」


 ルビナの顔がぱあっと明るくなる。本当は皮つながりで芋を思い出したとは言えない。


「……私を救ってくださったのがディアン様で良かったです」


 私は私じゃない他の人だったら良かったなとちょっと思っているけど、絶対にそんな事は言えない。


「そう言ってもらえるなら嬉しい」


 私は笑顔で誤魔化しながら次の街へと足を進めた。

芋餅で 丸く収まる 二難かな


第三話終了となります。

読了ありがとうございます。


次話から第四話「闇の中の光」になります。

今後ともよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ルビナ、自分の皮膚売ったらあかんで! それと芋餅が凄く美味しそうです♪
[良い点] ただ施すだけでなくちゃんと誇りを取り戻す為にどうしたらいいかと、相手の事を考えてるディアンさんの気遣いが素敵だと思います。 ルビナちゃんも自分を犠牲にしてでもディアンさんを助けたいという…
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