第二十話 さらば小心騎士よ その八
咳払いをしてラズリーに先を促す。
「で、我々の処遇はどのようにまとまったのだ」
「あ、そうだった。まず皇女殿下を親善大使として受け入れる事と、君の親善大使の就任は決定」
「そうか」
これは竜皇様の親書が本物と確認された時点で通るとは思っていた。
これを拒否する事は竜皇国に盾突く事と同義だからな。
「加えて二人は出来るだけ共に行動出来るよう、様々な配慮をする事も決まった。とりあえずは僕の家の別邸に二人で住んでもらう事になるよ」
「まぁ、そうなるか」
お偉方からすれば、猛獣のお世話係と言うところなのだろう。
師匠の言った通りになったのは癪だけど、ともあれ家の確保が出来た事は有り難い。
「で、君には爵位が贈られる」
え!? 嘘何で何で!?
「爵位、だと」
「そ。子爵位を賜るそうだよ。これで君も晴れて僕ら貴族の仲間入りって事」
何でだあああぁぁぁ!
子爵位って中堅貴族じゃないか!
商人上がりの私がなって良い位じゃないだろう!
「まぁ当然だよね。竜皇国との国交樹立に対する褒章と、国賓への対応を任せるに値する立場作り。それには騎士や男爵では足りないからね」
「いや、しかし私は……」
「断ると大変な事になるよ? ごねる大臣連中を陛下のご裁断で黙らせてるから、辞退しようものなら陛下の顔に泥どころか馬糞を投げつける位の侮辱になるからね」
それ死刑相当の罪じゃないかあああぁぁぁ!
受けたら権謀術策渦巻く貴族の渦中に放り込まれ、断ったら死って、どっちに転んでも地獄じゃないか!
「ま、貴族の面倒くさい慣習については僕が教えるから、大丈夫大丈夫。気楽に受けなって」
出来るかあああぁぁぁ!
血統主義万歳の貴族の中に商人上がりの私が入ろうものなら、表に出ない陰湿な嫌がらせで心を病む!
だって私小心者だもの!
「ディアン様、何かお困りなのですか?」
ルビナの顔を見て、はっと我に返る。
私がいなければ、そこにさらされるのはルビナだ。
血筋どころか種族の違うルビナが、温かく迎え入れられる可能性は皆無に近い。
ならば受けるしかない。断ったら死ぬし。
「いや、大丈夫だ」
「へぇ……」
ラズリーがさも面白そうに頬を歪める。
ラズリーは私の小心さを良く知っている。
ルビナの前で虚勢を張っている事を見抜いた故のこの表情だろう。
でも選択は変わらない。
「……ラッピス侯爵家ご子息ラズリー殿、ご指南の程、よろしくお願いいたします」
「ふふっ、こちらこそよろしくお願いするよ。ディアン・オブシ子爵殿」
何がそんなに嬉しいんだ君は。
「それで叙任式はいつになる」
「今から」
は?
「陛下も大臣連中も、とにかく一刻も早く地位を与えて安心したいみたいだね。これまでにない略式で、君を貴族に、そして二人を親善大使にするそうだ」
待て待て待て! 何の準備もないのにいきなり!?
せめて心の準備をする時間をください! 三日位!
「さ、行くよ。腹は括ったんでしょ?」
「……ぁぁ……」
開かれる扉。真っ青な顔が居並ぶ中、ラズリーに続いて国王陛下の前まで進む私とルビナ。
「騎士ディアン・オブシ。貴殿の功績に子爵位を授ける」
「有り難きし」
「そして子爵ディアン・オブシと竜皇国第一皇女殿下に、両国の架け橋たる親善大使の任を与える。両国のより一層の関係向上に努めて欲しい。以上である」
早い! 返事すらろくに出来ないうちに、国王陛下は退室された。
大臣様方もそそくさと部屋を出て行く。
え、これで終わり!? 私、貴族!?
タチの悪い冗談とかじゃないの? 出来ればそうあって欲しいんだけど!
「おめでとうディアン」
「本当に、私が貴族に……?」
「国王陛下の直接のお言葉だ。疑ったらバチが当たるよ?」
それにしたって、こんな……。
「ディアン様、あの、今のは……」
ほらルビナだって困惑顔だよ!
「無事に私とルビナが親善大使になる事が認められた」
「そうなのですね! 良かったです!」
うん、そこはね……。
「それとディアンは竜皇陛下の親書を届けた事で、国王陛下からお褒めの言葉と、子爵位を賜ったよ」
「ししゃくい? は良く分かりませんけど、お父様の手紙がディアン様のお役に立ったのなら嬉しいです!」
「……ありがとう、ルビナ……」
こうして王国に、商人上がりの子爵ディアン・オブシが誕生する事となった。
それと共に私が望む平穏は、はるか遠い彼方へと旅立って行ったのだった……。
騎士よさらば。こんにちは貴族。
読了ありがとうございます。
小心騎士が騎士じゃなくなったので、このお話はここでおしまいです。お付き合いくださり、ありがとうございます。
『小心貴族と竜の姫』って題名で続きを書いておりますので、もし続きを読んでも良いと言う寛大な方は、
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をよろしくお願いいたします。




