第二十話 さらば小心騎士よ その五
外套を着け直し、緊張と恐怖以外の全てが消し飛んだ謁見の間で、陛下の前に膝をつく。
「ご紹介いたします。竜皇陛下の娘……」
ルビナ、と言いかけて飲み込む。
でも本来の名であるガネットと呼ぶのは、竜の風習からして憚られる。
えっと、えーっと……。
「第一皇女殿下でございます」
「初めまして」
「う、うむ……」
多少変だけど仕方ない。
陛下に気にする余裕があるようにも見えないし。
「竜皇陛下は彼女を親善大使とし、王国との国交を望まれております」
「な、成程……」
「しかし王国の状況に不案内なのも事実。そこで面識のある私が竜皇国との親善大使となり、皇女殿下を支えるようにと仰せになられたのです。ご納得頂けましたでしょうか」
「あ、あぁ、大義であった……」
ごめんなさい国王陛下。
怯えさせるつもりじゃないんですけど、ここで言っておかないと、ただ竜の力で国王陛下を始めとしたお偉方を恫喝しただけになってしまうので……。
実際は貴方方に言ってるんですよ隅っこで震えてる大臣の皆様方!
「では皇女殿下は長旅でお疲れの様子なので、控えの間に下がって頂いても構いませんか」
「……良い。皇女殿下、お役目ご苦労であった……」
「ありがとうございます」
「控えの間で騎士ディアンと共に休むと良い」
え、私も!?
ちょっと待ってまだ交渉しないといけない事が色々あるんですけど!
「私はまだ報告するべき事がございます」
「後で聞こう。今は、その、皇女殿下の心の支えになる方が優先であって、だな」
あ、やり過ぎた。
私が傍にいないと、ルビナは何をしでかすか分からないと思われてる。
「ではディアン様、参りましょう」
ルビナは嬉しそう! 一人だとやっぱり心細かったのか!?
あぁ、でも待って! 家の事とか色々と!
「……、……、……」
「!」
ラズリーの無言の動作。ここは、自分に、任せろ……? 大丈夫、なのか……?
「では下がらせて頂きます」
「うむ、大義であった。ゆるりと休むと良い」
震える声でそう言われ、私とルビナは謁見の間を辞した。
小心騎士のディアン様、竜にまたがり陛下を威圧。
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