第二十話 さらば小心騎士よ その二
いきなり親書を偽ったと言われ、慌てて弁明を試みる。
「いえ、あの、信じられないのも無理はありません、国務大臣様。様々な幸運が重なっての事で、私も」
「黙れ! 大嘘吐きの詐欺師め!」
えぇ……。何でこんなに話聞いてくれないんだろう……。
「竜皇国から王都に遣いが来て、娘を探してほしいと依頼が来たのが二十日前! 協力する旨の親書を持った貴様が出発したのが十五日前! 馬でも片道七日はかかる道のりで、返事をもらうだけがやっとの時間で、何故全てが解決している!」
え、あれ? 師匠、もしかして私が早馬で届けてもらった親書、国王陛下達に見せてないの?
「大方臆病風に吹かれて道中時間をのらりくらりと時間を潰し、竜言語が使えるのを良い事に親書をでっち上げたのだろうが、欲をかきすぎたな! 自分を親善大使になどおこがましいにも程がある!」
師匠は本当にややこしくなる事しかしないな!
竜と人間の相互理解はどこ行った!
「それに何だ! この竜皇の娘を親善大使にと言うのは! どこに居るのだその娘は!」
「……控えの間に待たせております」
「はっ! 控えの間だと!? そこに竜がいるとでも言うのか! 案内からは女が一人としか聞いていないぞ!」
「身体を変化させる魔法で人間の姿を取っておりまして……」
「いい加減にしろ! 嘘に嘘を重ねても見苦しいだけだぞ!」
本当なんですけど、まぁ信じられないですよね。
私だって全部嘘でしただったらどれだけ良いか。
……苦労を振り返るとちょっと落ち込むだろうけど。
「ならばその竜皇の娘とやらをここに連れて来るが良い! よろしいですね陛下!」
「……騎士ディアン・オブシよ」
国王陛下が憂いに満ちた顔で口を開く。その口調は実に重い。
「竜皇国への特使が重責である事は承知している。故にここでお前が正直に話したとしても余は咎めぬ。控えの間に待たせていると言う娘にも迷惑がかかろう」
うわぁすっごい哀れみの目。
竜が恐くて逃げた上に親書をでっち上げ、竜の娘の代役まで立てた詐欺師と思われてるみたい。
あの、そんな度胸があったら私任命された時点で逃げてるんですけど。
「陛下のご温情、有り難く思います」
「やはり! 貴様!」
「ですが、誓って真実でございます」
「~~~っ!!」
場が静まった。と言っても津波が来る前に波が引く、あれと同じだろうけど。
「……良い度胸だ! 衛兵! 控えの間にいると言う娘を連れて参れ!」
「はっ!」
衛兵が扉を開けて出て行く。
「愚か者め。引き際を間違えたな。このような詐欺が儂達の目を欺けると思ったか」
「陛下の恩情も無にして、貴様ただで済むと思うなよ?」
「これだから身分卑しい者は嫌なのだ。失う物が我が身一つと思ってとんでもない事を仕出かす」
大臣達が好き勝手言う。
だが竜皇様が託してくれた親書と信頼は、たとえ私が大臣達に全く力の及ばない下級騎士だろうと、小心者であろうと、我が身可愛さに曲げて良いものじゃ無いんだ。
小心者にだって、譲れないものはある。
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