第三話 一難去ってまた二難 その一
前回までのあらすじ。
人に捕まり、誇りを失った竜の娘を保護した小心者の騎士ディアン。何をすれば良いのかも分からず、とりあえず言葉を教えたり、恐る恐る食べ物を与えたり、人間に化けた肌身にどぎまぎしたりしながら町を目指す。竜の娘に誇りは戻るのか、そして小心騎士の精神はどこまでもつのか。
それでは第三話「一難去ってまた二難」お楽しみください。
夕暮れ前に到着した町で、幸い服屋はすぐに見つかった。
「まぁ! 大変お似合いでございます!」
「そう、ですか?」
服屋の中で、ルビナは自分の尾を追う犬のようにくるりくるりと回っていた。
旅にも耐えるよう丈夫で質素なものをと頼んだが、美しい顔立ちのルビナには良く似合っていた。仮の姿だけど。
「いい見立てだ。感謝する」
「いえいえ、災難でしたね。水浴びの際に服を盗まれただなんて」
「今度からは用心するよう言っておかないとな」
素肌に外套の言い訳を服屋の女店主は素直に信じてくれた。ありがとう。変態にならずに済んだ。
「あの、本当にこのような服をもらって良いのですか……」
一通り確認したところで我に返ったのか、申し訳なさそうな表情を浮かべるルビナ。
だがここで、やっぱり買わない、と言えるほど、私の肝は太くない。裸外套は目に毒だし。
「勿論だ」
「ありがとうございます」
さてこれで必要なものは一通り揃ったかな。
「お客様、洗い替えにもう一式ご用意いたしましょうか? 寝巻きや肌着なども揃えておくと安心ですよ? それに野営をされるのであれば毛布や敷物もご入用では?」
流石は商売人。商機は逃さないか。
さして長い旅にはならないだろうし、野営の道具などはもう少し安い店でと思っていたが……。
「そうだな、頼む」
「はい、ありがとうございます! ではこちらの背嚢をおまけにつけさせていただきます」
「それは有り難い。で、勘定だが」
「こちらになります」
うっ。
「……良い買い物をした。感謝する」
「こちらこそありがとうございます! 今後ともごひいきに!」
上機嫌な女店主に代金を支払って荷物を詰めた背嚢を受け取ると、ルビナへと差し出す。
「え、あの……」
「自分の物は自分で持つように」
「……はい。ありがとうございます」
ルビナは受け取ると、まるで贈り物を貰った子どものように胸に抱いた。
痛い出費だったが、今後のための必要経費と割り切ろう。
「さて、次は腹ごしらえだ。この町は畜産が盛んだと聞いた。良い食事にも恵まれるだろう」
「はい」
昼食で今まで草しか食べていなかったと分かったルビナには、少しでも良い物を食べさせたい。
裸外套は卒業。
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