第十九話 旅の終わり その六
師匠の言葉に、竜皇様は怪訝そうな顔をする。
『もう行くのか。朝食位取っていけば良いものを』
『竜皇国の食事は我が弟子の口には合わないでしょう』
竜族って普段何を食べているんだろう。
気になるけど食べたいと言う勇気は無い。
ルビナが人間の料理を竜皇国より美味しいと言っていたのは、飼葉時代と比較した気分の問題では無かったのだろうか。
『そうなのか。では次は人間の口に合うものを用意するとしよう。その時は共に食してくれるな?』
『ありがとうございます』
お気持ちだけで胸がいっぱいです。
実際喉を通る気がしません。
『我が娘も壮健でな』
竜皇様の言葉に、ルビナも玉座に上がってくる。
『行って参りますお父様。成竜の儀、やり遂げて一人前になって帰って参ります』
『いや、大使である以上、我が国との行き来は必要だ。成竜の儀を終えずとも戻って来て良いのだからな』
竜皇様の必死さがうかがえる。
本当は成竜の儀に出したくなかったんだろうなぁ。
『お父様……』
『身体に気を付けてな』
『はい!』
竜皇様の胸に抱き付くルビナ。
必要な事とはいえ、ようやく再会出来た親子の縁を引き裂くようで心苦しい。
『それでは竜皇陛下、お世話になりました。頂いた御恩は決して忘れません』
『それはこちらの言うべき言葉だ。勇敢なる騎士ディアン・オブシ、心から感謝する。そして貴殿の幸いと壮健を祈ろう』
『ありがとうございます。竜皇陛下も末永きご健勝を』
勇敢とか言われちゃってる!
否定したいけど出来ないので、深々とお辞儀をして玉座から退く。
ルビナも私に合わせて竜皇様から離れる。
あぁ緊張した。信頼されるのは重荷ではあるけど、厳しかった相手が優しくなるのは純粋に嬉しい。
『では兄上。近いうちにまた』
『お前は別に帰って来なくて良い。それと我が娘に余計な手出しをするでないぞ』
『分かっていますよ』
師匠には厳しい。
「では行くか。我が弟子、我が姪」
「はい叔父様」
「師匠、よろしくお願いします」
『虚空よ、我らを遠き彼の地へ』
行きと同じように光に包まれる。
『我が娘ガネットよ。……幸せにな』
え、ちょっと何ですか竜皇様その娘を嫁に出す父親のような言葉は!
竜皇の娘と結婚なんて出来るか! 俺は国に帰らせてもらう!
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