第十九話 旅の終わり その四
「おはよう我が弟子」
「師匠。おはようございます」
玉座の扉の前で師匠が待っていた。
「良く眠れたかい?」
「……お陰様で」
「それは良かった」
皮肉が通じてない。
半日気絶していた上に、ルビナに手を出しても大丈夫と要らんお墨付きをもらって、ぐっすり眠れる訳がない。
お陰様で今後の対策が随分とまとまりましたよありがとうございますねぇ師匠。
『竜皇陛下、客人をお連れしました』
『入れ』
皇子が扉を開くと、奥に竜皇様の姿が見えた。
昨日は怯えていてまともに見る余裕が無かったけど、赤い鱗に金色の瞳、何より堂々としたその身体から溢れる高貴さと威圧感。
昨日の私はよくこの方相手に交渉出来たな……。
『おぉ、おはよう騎士殿』
『おはようございます竜皇陛下』
膝を付いて挨拶をすると、竜皇様は手を振った。
『そのような堅苦しい挨拶はしなくて良い。貴殿は我が血を分けた、言わば同胞である』
『……ありがとうございます』
同胞って……。竜皇様に認められたのは有り難いけど、ルビナといい皇子といい、竜族って人間を簡単に信用し過ぎじゃないか?
『お父様、おはようございます』
『おぉ我が娘。どうだ、昨夜は良く眠れたか』
『はい』
『それは良かった』
目を細める竜皇様。特使として親書のやり取りをした際とは随分印象が変わったなぁ。
竜皇と言う地位が威厳を求めるからそうしているだけで、実際は心の温かい方なのだと思う。
『おはようございます兄上』
『お前まだいたのか』
師匠には冷たい。
『さて騎士殿、ここに王国への礼と、外交関係を結ぶ旨の親書をしたためた。我が娘の親善大使の件と、貴殿を王国側の大使に推薦する旨も書いておいた』
『お心遣いありがとうございます』
あぁこれでもう逃げられないな。覚悟をしてはいるけど。
『良い。貴殿への礼はこの程度では足りぬ。他に望みがあれば可能な限り力を尽くすぞ』
本当に欲しいもの望んで良いなら、平穏な日常とかもらえませんかね……。
『残念だが、その願いは私の力を超えている……』
読了ありがとうございます。