第十八話 死を越えた先の幸い その八
まずいまずいまずい!
名前を付ける事が結婚にまつわる風習だなんて分かる訳ないでしょ!
とにかく弁明しないと!
「あ、あの、師匠、私の記憶を見たならご存知ですよね。私はあくまで竜の名を名乗れないと言った、ルビ……、ガネ……、こ、皇女様のために仮に付けただけであって……」
「今更呼び名を変える必要もあるまい。なぁ我が姪」
「はい。今まで通り呼んでくださいディアン様」
「いや、でも」
昨日と違って辛そうでなく笑顔なのは良い事だけど、結婚の儀式と同じと聞いて、そのまま呼べる訳がない!
「ディアン?」
「……分かり、ました……」
師匠の圧力には勝てない。
あああどうしよう! 呼び名は仕方ないとしても、せめて誤解は解かないと!
「安心したまえ我が弟子。私も兄上も我が姪もちゃんと理解している」
あぁ良かった寿命が縮まった。
知らない内にとんでもない事しでかすところだった。
「君が竜のしきたりを知らずに名を付けた事も」
うんうんそうそう!
「君の我が姪に対する好意もね」
うんうんんんんんん!?
「いやあのそれはその」
「おや、今更言葉で繕う必要があるのかね? 記憶を見たからご存知ですよ、我が弟子」
あああぁぁぁそうだったあああぁぁぁ!
何で師匠にも見せたんですか竜皇様!
勿論ルビナへの好意は否定しないけど、だとしても人間の私に出来る事はルビナの幸せを祈る事ぐらいで!
「勿論それを盾に添い遂げよなどと言う気は無いよ。ただ、名を与えた以上、より親密な関係になったとしても、兄上を含め誰も文句は言わない。安心すると良い」
安心できる要素が何一つない!
添い遂げよと言う気は無いと言いつつも、完全に私の歯止めを壊しにかかってるじゃないですか!
あれだけ苦労して男の本能に耐えたのに!
「では我が姪、我が弟子、良い夜を」
「え、ちょ、師匠」
止める暇も有らばこそ。今度こそ師匠は扉の外に消えた。
残ったのは私とルビナと沈黙。寝台は一つだけ。
……どうするのこれ! 師匠があんな事言うから妙に意識してしまう!
「……あの、ディアン様」
「は、はい」
ルビナの言葉に声が思わず上擦る。
「……あの、大丈夫です。ディアン様を、困らせるような事は、いたしませんから……」
目を伏せるルビナに何と声をかけて良いのか分からない。
あれだよな、恋人とか男女の仲とか男の本能とか、全部知られてるんだよな……。
どうしよう。心臓の鼓動が破裂しそうな程大きく激しく響く。
私このまま死んで竜になっちゃうのかな。
今夜こそお楽しみなんだろ!?
読了ありがとうございます。