第二話 言葉とご飯と水浴びと その四
深く呼吸をして興奮しかけた頭を落ち着かせていると、水音が途絶えた。
「終わりました。次はどうしましょうか」
「よし、布で身体を拭いて……」
あ、布は背中を洗うのに使わせたんだった。背嚢からもう一枚布を取り出して背中越しに差し出す。
さっきの変な話題のせいでぎこちなくなっている自分が情けない。
「これで身体を拭いて、外套をまとって火にあたると良い」
「分かりました」
衣擦れの音。少しすると言われた通り火の傍に寄ってきた。外套着てる。残念、いや良し。
見ると長い黒髪もしっかり洗ったようで濡れ羽色。乾かすのに時間がかかりそうだな。
まだ日は高いが、遅くなれば店も閉まる。なるべく早く出発したい。
「髪が乾いたら出発しよう」
「分かりました。乾かします」
乾かします?
『風よ、我が身に付きし滴を絡めとれ』
言うなり風が巻き起こる。竜の魔法か? って外套がはだけて! 慌てて目を背ける!
でも一瞬見えちゃった! ごめんなさい! いや何に謝ってるんだか分からないけど!
「乾きました」
「……魔法とは便利なものだな。他にはどんなものが使えるのだ」
「はい、今使えるのは自分の身体に関わる魔法と、わずかな風と炎の魔法だけの様です。今の感覚でしたら、今少し時間を頂ければ他にも使える様になると思います」
事もなげに答える。
……わずかでこれなら、完全に回復したらどうなるのだろう。
そして誇りを取り戻し、屈辱と怒りを思い出した時、私は……。
駄目だ。逃げよう。剣を構えた瞬間に消し炭になる未来しか見えない。
「では町へ向かおう」
「はい」
未来に絶望した時は目の前の簡単なことから解決していく。少し悔しいが、実家の教えの有り難さが身に染みる。
今解決するべき課題、それは服だ。服を買おう。その後外套を縫おう。全てはそれからだ。
いずれ向き合う現実なら、今少し目を逸らす事も許される、はず。
第二話終了となります。
読了ありがとうございます。
次話から第三話「一難去ってまた二難」になります。
今後ともよろしくお願いいたします。