第十八話 死を越えた先の幸い その六
「竜皇国において成竜と認められるためには、竜皇国を出て国のために成果を挙げる事が必要なのだ。親善大使の件はそれに丁度良いと言う話になってね」
「成程……。一人前と認められるための試練という訳ですか」
師匠が頷く。
「流石我が弟子、理解が早い。そういった事情もあって、私はあまり関われないのだよ。試練は自力で乗り越えなくては成竜とは認められないからね」
「……私が関わるのは良いのですか」
「当然だ。竜の試練において人の力など、取るに足らないと判断されるからね」
うわぁ酷い言われよう。竜の力の前にはそうだろうけど。
「しかし三年ぶりに国へ帰れたのに、休む間もなく試練とは。成竜の儀とはそれ程急がなくてはならないものなのですか」
「いやそれは」
「いえ違うんですディアン様。私が望んだのです。周りの方、特にお父様からは強く引き止められたのですが、どうしても、とお願いして了承を頂きました」
師匠を遮ってルビナが答える。
ルビナが望んだって、それはまさか……。
「私、この旅を通じて、一日も早く成竜になりたいと思ったのです」
「そうか」
ルビナが自身の成長を望むのは良い事だ。
でもその理由の先に私がいるような気がしてならない。
「それにこの試練でしたら、ディアン様のお役に立てますから」
やっぱりルビナは私の為に親善大使を引き受けたのか。
私が先に言い出した事とはいえ、ルビナがそこまで気に病む必要はないのに。
「ルビナ。昨晩も言ったが、私は失った物よりも価値のあるものをルビナから受け取っている。私へ報いるために大事な成竜の儀を急がなくても良いのだ」
しかしルビナは首を横に振る。
「いえ、あの、ご恩返しの気持ちも勿論ありますが、それだけではありません。この旅で私が知った人の優しさや温かさをこの機会により深く学んで、竜族に伝えたいのです。それが出来れば、人と竜族のお互いの理解につながると思うのです」
「そう、か」
ルビナはそんな事まで考えていたのか。
一緒に旅した七日間がルビナにとって大きな意味があったのだと思うと、これまでの苦労や心労が報われていく気がする。
大人になるお手伝い(意味深)。
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