第十七話 小心者の戦い その三
七回は殺されるんじゃないかと思える殺気が周囲から叩きつけられる。
さっきの約束がなかったら私の身体は髪の毛一本残さず消えていたに違いない。
しかしそれよりも。
『……』
竜皇の無言が恐いよおおおぉぉぉ! 今すぐ土下座して嘘です冗談ですごめんなさいって謝りたいいいぃぃぃ!
『良かろう』
へ?
『竜皇の座、貴殿に譲ろう』
『竜皇様!?』
『何故そのような事を!?』
『このような無礼な人間に……!』
『鎮まれ』
周囲の竜がどよめくが、竜皇が羽を一振りすると一瞬で鎮まった。
『約束は違えん。竜の誇りである。ディアン殿が直接受け取り、かつ私が持つものは与えると言った以上、皇位もそれに含まれる』
『それは、そうかも知れませんが……』
『しかし人間が我らの長になど……』
『だが誇りを曲げる訳には……』
最終的にその結論に持って行こうとあれこれ考えていたんだけど、ここまであっさり通ると逆に怖い。
『では新たなる竜皇陛下。どうぞこちらへ』
まだ心の準備が出来ていないけど、こうなったら仕方がない。
震える足を何とか動かして玉座に上る。
振り返ると師匠以外の目に殺意しかない。
断崖絶壁にかけられた手すりの無い橋を渡るような感覚。
一歩間違えれば死ぬ。でももう後には引けない。
『皆様、私は人間の身でありながら竜皇の位に着きました。しかし下等な生き物が長として君臨しては、竜の誇りに傷が付きかねません』
膨れ上がる殺気!
暑いんだか寒いんだか分かんなくなってきた!
背中の汗が止まらない!
『そこでまず人間を下等と見なすこの国の掟を変えます。人間を竜族と対等に扱うよう定めます』
『何だと!?』
『人間風情が調子に乗って……』
『竜皇様! どうか誅殺を命じてください!』
『今の竜皇はディアン様である。控えよ』
『……! ……は……』
『ぐぬ……!』
『おのれ……!』
竜皇がかばってくれて助かった。
喉が恐怖で貼りつきそうになるが、ここで立ち止まる方が危険だ。一気に駆け抜ける!
このままッ!! 要求を! 竜皇国の! 掟の中に… つっこんで! 走りぬけるッ!(逃走)
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