第十七話 小心者の戦い その二
『さて、貴殿には娘を連れ帰った恩と、先程の侮辱に対する償いをせねばなるまい。私に出来る事で何か望みはないか?』
本来だったらここで大使を願い出るところだったんだけど、それも必要なくなったし、どうしよう。
何かルビナに残してあげられるものとか無いかな。
『あの、ルビ……、皇女様は今後竜皇国でどのように扱われるのですか?』
私の問いに、竜皇の表情が険しくなる!
しまった! ルビナって呼びかけたの不味かったか!?
『うむ……、この国では人間に後れを取った竜は罰を受ける。本来は追放となるが、貴殿のおかげで事情は分かったので、魔力を奪った上での労役程度で済ませられるだろう』
それって村に捕まっていた時と同じ……?
『では先程の望み、皇女様の減刑をお願いできませんでしょうか?』
『……出来ぬ』
絞り出すような言葉。
その声で、自分がいかに浅はかな事を言ったのかを痛感する。
そうだ、他にも尾を切られた竜がいる。
その中にはルビナの兄、竜皇の息子もいる。
娘だけを減刑するなど長として出来るはずも無い。
『心遣いには感謝する。だが娘可愛さに掟を曲げては、長として示しがつかぬのだ。それに娘だけを減刑しては他の者から批判を受け、より辛い立場に置く事となるだろう』
理屈は分かる。
でも三年も捕まって無理に働かされて、ようやく国に帰れたのにそこでもまだ罰を受けなきゃいけないなんて……!
そんなのあまりにも……!
『ならば他の皆様も含めた減』
『……痛み入る。だが追放の予定だった者を労役に減刑出来るだけでも幸いなのだ。この上貴殿への恩賞によって減刑されたとなれば、人間によって掟を曲げたと思われかねない。貴殿のためにも引いてほしい。頼む』
私の言葉を遮る竜皇の悲痛な声。
長であるが故に親である気持ちは押し殺さないといけないのか。
でもそれじゃ、ルビナも竜皇も救われない。
何か、何か方法はないのか!
私が人間である以上どうしようもないのか!?
『あの』
『ディアン殿。貴殿への礼は、私自身が持つもので、貴殿に直接与えられるものだけとさせてもらう。……頼む』
「!」
竜皇の言葉で二つの考えが閃く。
一つは礼としてルビナを貰い受け、王国に連れて行く事。
これならルビナに罰を課す事は出来なくなるだろう。
だが同時にルビナはこの国には居られなくなる。
ルビナの兄を始めとした他の竜達も罰を免れない。
それに今のルビナが私といて幸せとは思えない。
そしてもう一つの案。
これならルビナだけではなく他の竜も、上手くすれば人間をも救えるかもしれない。
だがそれは竜の掟に、即ち竜皇国そのものに真っ向喧嘩を売る事と同義だ。
成功しても失敗してもまず間違いなく死ぬ。
でも……。
『では私自身へ頂くもので、竜皇様がお持ちのものでしたらよろしいのですね』
『その通りだ』
『私は竜皇国の掟やしきたりに不勉強でございます。お願いが無礼に当たるものだったとしてもお許しいただけますか』
『構わぬ』
言質は取った。竜は口約束でも絶対に破らないと聞いた。
強者は嘘で自分を守る必要が無いからだ、と。
ならば弱者である私は、その強者ゆえの縛りに、無様に卑劣に付け込ませてもらおう。
『では』
たとえその後に強者の爪で引き裂かれる事になっても。
『竜皇の位を頂きたく存じます』
気でもくるったのかーっ
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