第二話 言葉とご飯と水浴びと その三
「さてと」
河原に降りるとまずは石をどかし、穴を掘る。
穴の周りに石を組み上げて掘った土を詰めたら、川から水を引き込む。
水が溜まるまでの間に木を集め、火を起こす。
火の中に石を幾つか入れて加熱。
石が十分に熱を持ったら溜まった水に放り込む。
「わ……」
じゅうっと音がして湯気が上がる。手を入れると、うん、いい温度だ。冷めないように流れ込む水を止めて、背嚢から身体を拭くための布と石鹸を出して、湯壺の縁に置く。
「さて、ここで外套を脱いで、身体を洗うと良い」
「はい」
ルビナが外套を脱ぎ始めたので後ろを向く。
少しすると湯壺へ入った音がした。
座っても腰くらいまでしか湯はないが、身体を洗うだけなら十分だろう。
「あったかい、です……」
「それは良かった。そこに置いた石鹸を使って身体を洗うと良い」
「せっけん……。これはどのように使うのですか」
そうかそこからか。
「湯につけて手のひらで擦り合わせると泡が出る。それを身体にこすりつけると汚れが落ちる」
「分かりました」
見えない以上洗えているかを確認する術はない。
確認した方が良いかな。いや何を考えている。
断続的に続く水音でちゃんと洗っているのは確認出来ている。
「あの」
「どうした」
「これは全身に泡を付けた方が良いのですよね」
「そうだ」
「背中はどうしたらよろしいでしょうか」
背中!
「手が届かないのですが」
背中を流してあげた方が親切じゃないかとか、背中なら触れても問題はないとか囁く男の本能に、竜の姿を思い出させて黙らせ、努めて冷静に答える。
「そこにある布を使うと良い。湿らせた後に石鹸を含ませて背を拭くのだ」
「分かりました。ありがとうございます」
再び始まる水音。ちょっと勿体ないとか思ってしまっている自分が情けない。
黙って水音に聞き耳を立てているからいけないんだ。話をしてみよう。
「その姿、随分人間らしいが、身体変化の魔法はどんな姿にでもなれるのか」
「いえ、時間をかけて観察したものにしか変化できません」
「成程。……服などは再現出来ないのか」
「身に付けている物は身体の一部と思えないので、再現する事は出来ません」
「そうか」
魔法といっても万能という訳じゃないんだな。
身体を服も含めて変化させたり、もうちょっと目に毒じゃない姿になれたら良かったんだけど。
……あれ? 服は身体の一部と思えないのなら、服で隠れている身体の部分ってどうやって認識しているんだろう?
「服の上からでも対象の身体を認識することは可能なのか」
「それは出来ません」
じゃあどうやってあんなに見事な身体付きに、っていかん! さっきの思い出してしまった! 仮の姿仮の姿あれは竜あれは竜!
「この姿になれたのは、以前何度かこの姿の女性が馬小屋で裸になって、男性と抱き合っていたのを観察したためです」
田舎の恋愛事情こらあああぁぁぁ! 気を逸らせようとしたのに逆効果!
「そう言えばあれは何をしていたのでしょうか」
理解していないのか。
まぁ竜からすれば人間のあれなんて、人間が犬猫のそれを見る様なものなんだろうけど、背中向けていて良かったあああぁぁぁ! もおおおぉぉぉ! 今すぐ頭から川に突っ込みたいいいぃぃぃ!
「さぁな。実際の場面を見ていない以上分からない」
「そうですか」
分かるけど言わない! 下手に教えて、そういう事もお望みであれば、とか言われたら困る!
竜にそんな事させる程、性欲も自殺願望も高まってはいないんだ!
男の子だからね仕方ないね。
読了ありがとうございます。