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03

 暫くすると本来なら一人用の小さなテーブルに二人分の料理が並んだ。楓は時折調理道具の場所を聞いてくる程度で、それ以外は凄くなれた手つきで料理を行っていた。そして小一時間で準備されたのが白米に味噌汁、そして肉じゃがだった。


「肉じゃが?」

「うん」


 まあ、確かに肉じゃがは好きだけど、一番好きなわけじゃないんだけどな。


「さ、召し上がれ」


 そう言って楓は俺に食べるよう促す。


「い、いただきます」


 俺は箸を手に持って早速肉じゃがを口にした。


「…………」


 一口。

 咀嚼して飲み込む。

 二口。

 懐かしい味がした。

 三口。

 俺は無言で食べる。

 四口。

 何でだろう。涙が止まらない。


「出汁は濃い目で、肉じゃがのじゃがいもは硬め。にんじんは嫌いだから入れない」


 俺が黙々と食べる中、楓が言った。

 ああ、そうかこの味付け。


「叔母のだ」


 小学校、中学校と俺の面倒をずっと見てくれていた叔母の味。

 病室で看取った時は実感が湧かなかった。

 でもこうして改めて向き合うと何か心に来るものがある。


「一斗くん、肉じゃがってそこまで好きじゃないけど定期的に食べたいって言うんだよね。それに味付けに関してやたら注文が多くて何度も喧嘩したんだよ」


 俺の知らない未来。

 楓は懐かしむように言っていた。


「嫌でもその味付け、覚えちゃった。叔母さんのことは…………残念だったね」


 次は悲しむように言った。どう反応していいか分からなかった。

 まるで自分のことのように真剣に悲しんでくれる楓。


「………知っていたのか?」

「そりゃあ未来から来て、一斗くんと結婚していればお互いの話だってするよ」


 どうやら俺はこの女の子は本当に未来から来たということを信じなければならないみたいだ。


「あ、おかわりは?」

「………いただきます」


 楓は俺のお椀を持って立ち上がる。

 キッチンで肉じゃがをよそいながら、


「これで信じてくれたかな」

「………今更疑わない」


 どれだけ非現実的でも、疑うことができなかった。

 きっと俺は楓に相当心を許していたんだと思う。素直に信じすぎ?そうとも取れるな。でも俺にとっては信じるには十分すぎる証拠だ。


「良かった」


 楓は安堵していた。そして再び肉じゃがでいっぱいになったお椀を俺の側のテーブルに置いてから、向かい側にちょこんと腰を落とした。


「いただきます………あ、我ながら上出来だね」


 肉じゃがを口に運んで楓は言う。

 俺はそれを眺めていた。


「ん?」


 目が合うと楓はにこりと笑う。

 俺は慌てて目を逸らした。

 改めて思うけど………こんなに可愛い子と俺が未来で結婚するのか?


「どうしたの?顔赤いよ」

「…………」

「ん?」

「あのさ、本当に俺とお前が結婚するのか?」

「あれ?信じてくれたんじゃなかったの?」

「いや、未来から来たって言うのは信じてるんだが………その、お前と俺が結婚って言うのが…………」

「あーそっか。不釣り合いだと思ったんでしょ」


 ニヤリと口元に笑みを見せながら楓が言う。

 クソ。俺が気にしていることをあっさりと言いやがって。

 だってそうだろう?一体どんな出会いをしたらこんな人と俺が結婚するんだ?自分で言うのもなんだが、俺は根暗だと思う。それに対して楓は………多分モテる部類の人間だ。


「まあ、確かに今の私と一斗くんは不釣り合いだね。可愛くて何でもできる私と根暗で陰険な一斗くん」

「おい、根暗はともかく陰険はひどくないか?」

「私はどっちも否定して欲しかったんだけど………まあ、正直なところが一斗くんらしいよ」


 そう言ってにこりと笑う。


「いや、そうじゃなくて…………」


 ………って俺は何照れているんだよ。


「出会いは様々なんだよ?それに私と一斗くんは本当に結婚するよ。不釣り合いだなんて思わない。私はいつも幸せだよ。もったいないくらいに出来た旦那さん」


 背中がむず痒い。

 俺であって俺じゃない人間が褒められていて…………でもそれは俺であって………訳が分からん。


「…………」

「あ、照れてる」

「う、うるせえ!」


 俺は恥ずかしい気持ちをごまかすためにそっぽを向いてご飯を食べる。

 いつの間にかさっきまで流れていた涙は止まっていた。



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