12
「きょろきょろし過ぎるのはあんまり良くないよ」
じゃあこの四方八方下着の空間でどこを見ろと?
「地面でも眺めていればいいのか?」
「それも逆に変質者だね」
「じゃあどうすればいいんだよ」
「堂々としてればいいんだよ」
「出来たら苦労しないって」
それにしても何でこの空間はこんなに良い匂いがすんだ?
「匂いを嗅ぐのはもっとダメだよ」
「…………」
隣で平然と下着を選らんでいる楓が言った。
「あ、これなんてどうかな」
そう言って自分に重ねて見せてきた下着は水色のシンプルなやつだった。
「…………」
「どう?」
べつに見せるものじゃないだろう?何で俺に聞くんだ。
「い、良いんじゃないか?」
「やっぱり?」
楓はそれをかごに入れて「次はー」と店内を回り始める。
頼むから早く選んでくれ。
「次はこれ………ちょっと試着してこようかな」
「は?」
「え?」
「し、試着なんてできるか?」
「驚くところそこ?………だって試着室あるし、常識だと思うよ?」
「それは未来での常識じゃないんだよな?」
「だから今あそこに試着室あるよね?」
「…………」
「ほら、付いてきて」
手を引かれ、俺と楓は試着室の前へ。
そして楓は試着室に入っていった。
だから一人でどうしろと?
当たり前だけど店内は女性しかいない。さっきのカップルと思しき二人組はどこへ行った。頼むから一人にしないでくれ。
試着室の中からしゅるしゅると服を脱ぐ音が聞こえてくる。
暫くすると手が伸びてきて、
「うおっ」
俺は頭だけ試着室の中へ。
「…………」
「どうかな?」
「頼むから少しは恥じらってくれないか?」
そこにはさっきの選んだ下着とは違う、黒色の下着を付けた楓がいた。
「恥ずかしいけど?」
「全くそう言う雰囲気が感じられないんだよ」
「それで、どう?」
「えっと………いい感じです」
「良かった」
「あのさ」
「なに?」
「俺、ここからどうすればいい?」
現在俺は試着室に上半身のみが入った状態で、それに加えて腕を楓に掴まれている。
「あー、早く顔は出した方が良いよ。流石に見せ合う人はいないから」
「じゃあ何で俺の腕を掴んだ!?」
俺は慌てて楓の腕を振り払って試着室から顔を出す。
だ、誰も見て無いよな?
「やっぱり一斗くんは大人っぽいのが好きだね」
試着室の中からそんな声が聞こえてきた。
「おいちょっと待て。それを知ってて連れてきたのか?」
「勿論」
その瞬間俺は急いで店を出た。
これは俺の人生の中でもそこそこ大きな黒歴史の一つである。