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「いやー楽しいデートだね」
休日のショッピングモール。隣を歩く楓が言った。
「これはデートじゃない」
「そうかな。一緒に服を見て、雑貨を見て、ご飯を食べて………あ、夫婦か」
「………夫婦じゃない!」
「間があったね」
「うるさい」
「にしても沢山買ったね」
「………切り替えが早すぎる」
洋服に楓用の食器、布団。何度ショッピングモールと自宅を行き来したか。
確かに沢山買ったな。
「お金大丈夫?」
「それが全然減ってない」
俺は財布の中を見て言った。
「大富豪になった気分だね」
「同感だ。他に何か必要なものはないのか?」
まだお金はたんまりある。
何度もショッピングモールに来るのは面倒だから今日のうちにある程度は揃えておきたいのだ。
「んーそうだなー」
楓は顎に手を当てて考える。
「あ、そうだ」
そして何か思いついたみたいだ。
「こっち」
そう言って楓は俺の手を取ってモール内を走り出した。
そしてたどり着いたのは………
「いや、確かに必要だが」
「でしょ?」
「俺がここに来る意味は無いな」
女性用の下着の店だった。
「そんなことないよ、ほら」
そう言って楓が指さす先には、男子と女子が仲良く下着を見ている光景だった。
んー。時代の変化って怖いね。
「というわけだから」
そう言って再び楓が俺の手を取る。
俺はそれを振り払う。
「往生際が悪いよ」
「い、いや………よそはよそ、うちはうちだろ?」
「うちは下着を一緒に選ぶんだよ」
「嘘だ!」
「本当だよ」
俺は再び伸ばされた楓の手を振り払う。
「わかったよ………私一人で選ぶ」
何であからさまに落ち込むんだよ。
「いいんだね?私一人が選んで」
数歩歩いては振り返り、
「本当にいいんだね?」
数歩歩いては振り返る。
「いい………」
「あーもう!分かったよ!!一緒に選べばいいんだろ?」
俺はふうと息を吐いてから店内に入る。
「ふふ」
「お前、あとで覚えておけよ」
隣を歩く楓に俺は言った。
「あ、流石に一斗くんの下着は一緒に選ばないからね」
「違うわ」